組織に嵌らぬ恋多き男「トップガン マーヴェリック」の主人公が愛される理由

『トップガン マーヴェリック』(c)2022 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.

「トップガン マーヴェリック」の冒頭、主人公の「マーヴェリック」ことピート・ミッチェル大佐が、極超音速テスト機でマッハ10の壁を越える場面。手に汗握る迫力のシーンだが、これを観て、かつて1947年に人類で初めて音速(マッハ)の壁を超えた米空軍のレジェンド、チャック・イェーガーのことを思い出した。

イェーガーは、映画化もされたトム・ウルフのノンフィクション「ザ・ライト・スタッフ」では、一方の「主役」として登場する。作品はNASAの有人宇宙飛行プロジェクトであるマーキュリー計画に携わった7人の宇宙飛行士を描いたものだが、宇宙へと飛び立った彼らに対比するかたちで、地球上で音速の壁を破るというミッションに挑戦した人物としてイェーガーが取り上げられている。

NASAの計画が進展するなかで、イェーガーの関わったプロジェクトは中止されることになるが、それはトップガンのマーヴェリックが、無人機開発が本格化するなかで、プロジェクト継続のために自らの手でマッハ10の壁を破る状況に似ている。マーヴェリックには、人類で初めて音速の壁を超えた男 チャック・イェーガーが重なるのだ。

ちなみに、マッハ1は通常の条件ならば、秒速約340メートル、時速にして約1225キロメートル。マーヴェリックが達成するマッハ10超えはまさに異次元の世界。このアメイジングなシーンを冒頭に持ってきたのは、まさに作品の掴みとしては実に効果的といえるかもしれない。

「実写」にこだわったトム・クルーズ


「トップガン マーヴェリック」は、1986年に公開された「トップガン」の36年ぶりの続編で、主人公マーヴェリックを演じるトム・クルーズが、長年、製作権を譲らずにあたためていたという作品だ。

現実世界では無人ドローンでの戦闘が常態化するなか、空を駆けるパイロットをリアルタイムで描くのは最後の機会だと感じて、トムはこの機を逃さず続編に取り組んだ気がしてならない。そういう意味でも、独り極超音速に挑戦するマーヴェリックは21世紀のチャック・イェーガーでもある。

36年ぶりの続編ということで、映像技術の進化は言うまでもなく、CGなどの特殊技術を駆使すれば、驚きの映像を観客に見せるのはわけもないことだっただろう。しかし、前作同様にプロデューサーも務めたトム・クルーズは、この作品でも、とにかく「実写」にこだわっている。それは鍛え上げられた肉体を駆使するリアルなアクションを得意とする彼なら、当然のことなのだろう。

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トムが中心となって、撮影に入る5カ月前から、パイロット役を演じる若い俳優たちを集めて戦闘機に乗るための特別訓練を実施している。彼らや彼女(今回は1人女性パイロットも登場する)が座るコックピットはまさに「本物」なのだ。戦闘機のなかに撮影機材も設置して、実際にかかるG(重力加速度)のなかでの俳優たちの迫真の表情も捉えている。
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文=稲垣 伸寿

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