今井さんや龍円さんのような著名な人でも、子どもに病気や障害があるとわかったときには就労問題の壁に直面して苦労したという経験談はたいへん参考になった。なかでも、龍円さんに話していただいた東京都の施策にとても関心を持った。
龍円さんは自身の経験から、「スペシャルニーズのある子どもの親にとって小1の壁は断崖絶壁のよう」と話されたうえで、具体例として、1つの調査結果を提示した。それは、障害児の母親の就労率はわずか5%で、東京都ではその対策の1つとして学童クラブに障害児を受け入れ、インクルーシブな(仲間はずれにしない)環境づくりを進めながら、親の就労支援をしていっているというものだった。
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地下鉄の車両に「子育て応援スペース」が
龍円さんが話された東京都の施策について、より詳しく紹介しよう。
2020年11月、障害児の保護者らが、小池都知事に「小学校入学後も働き続けられるようにして欲しい」と直接要望した。女性の活躍を応援する都はすぐに動き出す。要望から5カ月後には障害児の「小1の壁」を取り除くための支援策がスタート。これまで受け入れが断られていた、ケアが特に必要な障害児も学童クラブが利用できるように、専門家を配置する都独自の予算が加えられた。
特別支援学校を利用しているお子さんでも利用できるよう、送迎も支援する。学校教育では通常の学級から分離されている障害児にとっては、放課後に地域の子どもたちとともに過ごして友達ができることも、インクルーシブな社会づくりにおいては重要な一歩だ。
しかし、東京都では保育所の待機児童数は2022年4月には300人台で、5年で9割以上減少して解消されつつあるものの、学童クラブは待機児童がまだ依然として多いという課題がある。
そこで東京都では、今年度から独自の制度である「認証保育所」で小学生の受け入れを始めるとともに、待機児童がベビーシッターを利用した場合についても支援を始めた。
また放課後はほとんど預かり先がない医療的ケア児や重症心身障害児については、その時間を安定して過ごせる場所を確保するため、東京都独自の放課後支援事業も昨年度から始まっている。東京都ではすべての就労を希望する親が働けるよう、「小1の壁」を無くすために本腰を入れて動き出しているという印象を受けた。