テクノロジー

2022.06.23 10:00

医薬品業界の新型コロナワクチンへの取り組みが不当に過小評価されている

安井克至

まず、これらのワクチンが「最小限のリスクで市場にもたらされた」という見解から見てみよう。ファイザーは、大部分の新型コロナワクチンを生産し、これまでにおよそ70億回の接種が行われているが、同ワクチンの発見、生産、流通に関して、オペレーション・ワープ・スピード(OWS)の資金は一切受けていない。パール氏は、パンデミック開始当初にはmRNAワクチン技術がまだ確立されていなかったことを忘れているようだ。ファイザーは、このワクチンの開発に20億ドル(約2723億円)の事前投資を行うとともに、このまったく新しいワクチンの生産に必要な工場を建設した。ファイザーのCEOであるアルバート・ブーラ博士は、もしこの技術が失敗しても、20億ドルの投資で「会社は倒れることはない」と強く宣言した。しかし、ファイザーの2020年の売上は417億ドル(約5兆6300万円)だったため、もしmRNA事業が失敗していれば、投資家はいい顔をしなかっただろう。ファイザーがOWSと交わした契約は、ワクチンが臨床試験に合格し、米食品医薬品局(FDA)に承認されれば、接種1億回分をOWSが購入するというものだった。つまり、ファイザーにはワクチンが失敗した場合の転落防止ネットはなかった。

第2の新型コロナワクチン生産者であるモデルナは、OWSから資金を受けた。しかし、パンデミック初期、モデルナは苦闘するバイオテック企業であり、創立10年間にまだ1つの製品も作っていなかった。つまり効果を立証されていないワクチンを開発、生産するために必要な資金を持っていなかった。ありがたいことに、OWSはこの事業に資金を提供した。それはパンデミックまっただなかに第2のワクチンを得るために不可欠だった。これこそが、国家危機において政府がなすべき役割だ。モデルナも、同社のワクチンがFDAに承認された暁には1億回分を販売する契約を結んだ。しかし、もしmRNAワクチンが失敗していたなら、この基礎技術の重要性を踏まえると、モデルナもまた財政危機に陥っていただろう。「最小限のリスク」などと誰がいえるだろうか。
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翻訳=高橋信夫

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