ヤフーの動画配信サービス「GYAO!」を運営する株式会社GYAO(ギャオ)の取締役を務めていた旦悠輔(だん・ゆうすけ、42歳)が、昨年5月、神戸市内の閑静な住宅街の一角に「自由港書店」という5坪の小さな書店をオープンした。
書店入り口には灯台をモチーフにした明かりが
店は須磨海岸から歩いて3分の場所にある。須磨海岸といえば、神戸の繁華街である三宮から電車で西へ15分でたどり着く白砂青松の海岸だ。温暖な気候と風光明媚で知られるこのあたりは、平安時代から京の貴族の隠居先として人気を集め、源氏物語の舞台にもなった。
そんなところに、大手IT企業の幹部を辞した人が書店をつくったと聞けば、東京での仕事に追われる生活に疲れて、この地で解放されたかったのではないかと、誰もが思い浮かべるかもしれない。
ところが、彼に話を聞くと「そもそもこれまで関わってきたインターネット自体が、このような本屋に近い役割を担っていました。なので、自分としては原点回帰しただけです」と意外な言葉が返ってきたのだ。彼が何を考え、どこを目指しているのか聞いてみた。
白砂青松の須磨海岸
インターネットの根源的な力とは
旦は、子どものころから本や映画が好きだったという。だが、大学を卒業したとき、出版や映画の業界ではなく、IT業界を仕事の場に選んだ。
「ちょうど就職した2002年は、インターネットという新しいツールが世界に広がりはじめたころでした。世界中に無料でアクセスでき、誰もが自由に発信できる。さらに、同じ思いを持つ人間同士が簡単につながることができる。インターネットの登場で世界が大きく変わると思いました」
そこで旦は、まず外資系のコンサルティング会社で働いたあと、動画配信サービス「Yahoo!動画」を運営する新会社「TVバンク」に転職する。同社は、動画配信で先行していたUSENが運営する「GyaO」に対抗しようと、ソフトバンクとヤフーが設立した会社だった。
ところが、2009年にヤフーがギャオを買収。すると旦は、自らの意思でギャオへの転籍を決断し、社長室長を務めた。そして、同社が急成長期を迎えた2012年、32歳という若さにもかかわらず、ギャオの取締役へと抜擢されたのだ。