大手IT企業の元取締役が、須磨海岸にたった5坪の書店をオープンしたワケ

自由港書店の店主・旦 悠輔(だん ゆうすけ)


「私が飛び込んだ動画配信の世界は、まだ不透明で将来の成長も未知数だと思われていました。そこで、アニメ制作会社や映画会社などに、著作権やお金の流れがきちっと整理できていることを説明するのが最初の仕事でした。

やがて、ネットフリックスやアマゾン・プライム・ビデオが日本に上陸し、この10年ほどで、電気や水道のようなインフラとも呼べるほどに、誰もが使うようなサービスとなりました」


懐かしい児童書も並んでいる

仕事に十分なやりがいと手ごたえを感じていた彼だったが、「いずれは自分で事業をやりたい」という思いがあった。そこで、ギャオとヤフーの経営体制に再び変更があったときに、独立することを決断したのだという。

「インターネットが飛躍的に成長し、情報の洪水を生み出しています。いま人々に注目されているコンテンツは誰のスマホにも表示され、タイムラインでは『人気』や『最新』の情報があふれています。ところが、自分が切実に必要とする情報にはたどり着きにくくなってきているのです。

世界で数億人が視聴するメガコンテンツは誰もが見ることができます。ですが、ファンがまだ100人にも満たない、切実にそれを求める人がいるアーティストやクリエイターとの出会いは生まれにくくなっています。これをつくることができるのが、インターネットの根源的な力であると信じています」

週1で神戸市役所広報戦略部に勤務


そんなとき、昔から街には必ずあった書店のことを考えるようになったという。かつては全国のどこの駅前にも大なり小なり書店はあった。ところが、オンライン販売サイトや電子書籍サービスに押されて、多くは店を閉じていった。


手にとれば本の重さや質感が感じられる

旦は、そんな「街の書店のありよう」と「インターネットの根源的な構造」は似ていると語る。

「かつて私が強い可能性を感じた『生まれたばかりのインターネット』は、1カ所から情報を発信するのではなく、世界中のあちこちから出された情報に、世界のどこからでもアクセスできるものでした。草の根のつながりを生むことを目指していたように思います。

ところが現在、誰もが1つの情報源を見る傾向が強まってきています。テレビや新聞といったこれまでのマスメディアと同じようになってしまっていると考えざるを得ません。それはそれで便利だと言う人もいると思いますが、新しい出会いをつくりだすというネット本来の機能が弱くなっています。
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文=多名部重則

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