性感染症のオーストリア男性から新型スーパー淋菌が発見

淋菌は図のように一対の細胞から構成され双球菌と呼ばれる。その表面には毛髪のような性繊毛(せいせんもう)がある。淋菌は性感染症である淋病の原因となる(Getty Images)

この男性の旅は、「スーパー淋病」的な意味でスーパーな旅となった。ユーロサーベイランス誌に掲載されたばかりの症例報告には、とあるオーストリア人男性に起こったカンボジア旅行中とその後の出来事が書かれている。報告の要点は、この50代の男性が、新種の超多剤耐性(XDR)淋菌に感染したことだ。

これは、新しいことへの挑戦が良い結果を産まなかった例のひとつだ。この新しい菌株は、アジスロマイシンに高い耐性を示し、セフトリアキソン、セフィキシム、セフォタキシム、シプロフロキサシン、テトラサイクリンにも耐性を持っている。症例報告書を執筆した、オーストリア保健・食品安全庁、オレブロ大学、LKH Hochsteiermarkの著者たちによれば、このようなXDR淋菌が発見されたのは2回目だ。通常淋病の治療に使われるのはアジスロマイシンとセフトリアキソンなので、今回の菌株が広がると困ったことになる。

2018年3月、フォーブス誌上で、淋菌がアジスロマイシンに対する高レベルの耐性とセフトリアキソンに対する耐性の両方を持つ、初めての報告例を取りあげた。当時、英国の男性を巻き込んだこの2018年の症例は「世界最悪の淋病症例」と呼ばれた。また、薬剤耐性があるために特に殺すのが難しいことから、「スーパー淋病」というニックネームが付けられた。

かの英国男性はもはや「世界最悪」の称号をひとりで背負う必要はない。それ以来、そのXDR淋菌は世界各地に広がり続けたが、これはこの問題への対処が不十分であったことを示している。そして今や、Eurosurevillanceの新しい症例報告によれば、どうやら世界には新しい2種類目のXDR株が登場したようだ。

とはいえ、近所の金物屋に行ったからといって、スーパー淋病にかかるわけではない。淋病は性行為感染症(STI)なのだ。したがって、スーパー淋病に罹患すると、配偶者やいつものパートナーにどんな言い訳をしたとしても、どこかで性行為をしたことがばれてしまうのだ。Eurosurevillanceの症例報告に書かれている男性は、カンボジアを旅行中に売春婦相手にセックスをしただけでなく、コンドームもつけていなかった。その通り。おそらく多くの人間とセックスを重ねているであろう見知らぬ人とのセックスでコンドームを使わないのは、もちろん安全とはいえない。それは、STIが当たるクジを引くようなものだ。

実際、ジャガイモを焼いたり、煙突を掃除したり、ホットドッグに火をつけたり(いずれもセックスを婉曲的に表現した表現)した後5日目くらいに、このオーストリアの男性は排尿時に灼熱感を感じ、ペニスからの分泌物を発見した。このような症状は、大量のアイスクリームやネットフリックスのイッキ見で単純に解決できるようなものではないことは明らかだ。そこで、この男性は2022年4月にオーストリアの泌尿器科を訪れた。そこで、尿道スワブをはじめとするさまざまな検査を行ったところ、淋菌の存在が明らかになった。そこで医師はこの男性に淋病の典型的な抗生物質治療(セフトリアキソン1グラムの筋肉注射とアジスロマイシン1.5mg投与)を行った。医師はおそらく、これがありふれた淋病のケースだと考えたのだ。
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翻訳=酒匂寛

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