性感染症のオーストリア男性から新型スーパー淋菌が発見

淋菌は図のように一対の細胞から構成され双球菌と呼ばれる。その表面には毛髪のような性繊毛(せいせんもう)がある。淋菌は性感染症である淋病の原因となる(Getty Images)


残念なことに、この淋病については、その考えはすぐに打ち消された。2週間後くらいにクリニックで再診を行った際には、男性は症状は治っていると話した。だが注意が必要だ、症状がないからといって、必ずしも感染していないとはいえないのだ。淋菌感染症は見てわかるヘアスタイルのようなものではない。感染していたとしても必ずしも明らかではないのだ。そこで、医師は尿道スワブを再び実施した。綿棒に付着したものをPCR検査すると、とんでもないことがわかった。淋菌はまだ残っているようだったのだ。つまりは最初の抗生物質投与で感染が治まらなかったことを意味している。

検査でこの淋菌は、アジスロマイシンに高度な耐性を示し、セフトリアキソン、セフィキシム、セフォタキシム、シプロフロキサシン、テトラサイクリンにも耐性を示されて、治療の選択肢がかなり狭まってしまった。そこで1日2回、1グラムのアモキシシリン/クラブラン酸を7日間服用させたところ、ようやく感染症は治まったようだった。結局、分子解析の結果、この男性は新しいXDR株である淋菌に感染していたことが判明した。症例報告によると、AT159と名づけられたこの菌株は、「WHO Qと同じ亜系に属するが、313カ所のDNA配列が異なる」という。つまり、医師たちは新型の株を扱っていたことが、検査で明らかになったのだ。このような経緯で、新型菌株の症例報告がユーロサーベイランス誌に掲載された。

もちろん、症例報告というものは、これまでは非常に珍しい症例に限られていた。だがスーパー淋病が広がり続けて、廊下ですれ違いざまに質問すると「ああ、またスーパー淋病になったよ」という声が日常的に聞こえてくるような状況なのだ。しかし、この状況は今後、もしかしたらすぐにでも深刻化するかもしれない。米国疾病対策センター(CDC)のビデオでは、淋菌が新しい抗生物質に対して、いかに早く耐性を獲得したかが紹介されている。



現在、淋菌の特効薬はなく、新しい抗生物質はほとんど開発されておらず、抗生物質の過剰使用は依然として多い。政治家、政策立案者、企業の間では、抗生物質耐性菌の増加という問題に対処しようという差し迫った危機感が全体として欠けている。こうした条件は、スーパー淋菌の両株がさらに広がり、さらにはより新しいスーパー淋菌株が出現するためには好都合だ。こうしたことから最終的にはほとんどの「ありふれた」淋病の治療が本当に困難になる可能性がある。そしてこのことは、それほど遠くない将来に、世界に真の問題を残すことになりかねないのだ。

翻訳=酒匂寛

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