新しいラグジュアリーでは「ローカリティ」が大切にされますが、もしかしたら、土地に根ざしたアイデンティではなく、国境を超えた「感覚のローカリティ」にアイデンティティの拠り所を見出すということも「あり」かもしれない。メタバースに住むことが増えるとされる時代にはますますそうなる予感がします。
となると、こういう異文化混成ビジネスのあり方にもまた、未来の可能性の一つを見て取ることができます。
歴史のモダンなアップデート
最近、日本的な新しいラグジュアリーの予兆を感じた宿のひとつに、新潟・六日町の「ryugon」があります。有形文化財に指定されている老舗宿「龍言」が2019年にリノベーションされて生まれ変わったホテルです。
六日町の「ryugon」
「古民家ホテル」系に含まれるのかもしれませんが、雪国の豪農の重厚な古い建築はそのままに、インテリア、庭園、照明、ホスピタリティがすべてモダンで美しく、適切なサイズ感のもとに気前よく整えられています。
徒歩圏内には旧坂戸城跡のある国指定文化財の坂戸山があり、霊的な体験ができるとともに、周辺の住宅からは、水田や畑と共に暮らす人々の「分を守る」豊かさも感じとることができます。安っぽいお土産店が近隣にないのも爽快で、歴史や土地の恵みとつながることができるツーリズムとして満足度の高いものでした。
山の中のいたるところに神社や石像、鳥居がある
後から調べてわかったことですが、プロデューサーは、家業である旅館を引き継いで「宿は地域のショールーム」という考えのもとに続々と新しい改革をしている井口智裕さんでした。宿と地域が共生することで生まれる世界を「旅館3.0」と命名し、その思想を具現したホテルとしてこの宿をプロデュース。最先端で活躍するクリエイティブディレクター、ランドスケープデザイナーが、歴史や土地の魅力をアップデートした具体例は、新ラグジュアリーの世界観に通じるツーリズムとして影響を与えそうです。
次世代継承 「だが、今日じゃない」
自分たちが面白いことをやることで若い人も集まり、その中で助け合いながら継承すべきことを継承していくという理想形を、最近では映画「トップガン マーヴェリック」のなかに見ました。
この作品は、安西さんの洗練されたよき趣味の範疇からは外れることは重々承知しています。しかし、私と同年代のトム・クルーズが、映画においても映画製作そのものにおいても、身体を張って自ら楽しみながら若い俳優や現場スタッフを育てていくというやり方には、次世代への伝統継承の希望を見る思いがしました。
「君たちはいずれ絶滅していく種だ」などと言われ、それを認めながらも、「だが、今日じゃない(But not today)」と不敵に返す「はぐれ者」のセリフは、新しい世代の背中を押しながら旧世代が自らをも助けていく「We」の世界を創造していこうとする人にとっての、力強い決め台詞にも聞こえます。
以上の三題伽、ドラーリから連想を始めたもののその洗練さとは遠く離れてしまいましたが、共通するのは、「新しいラグジュアリーという観点で見ると、目の前の現象はどのように映るのか?」という解釈でもあるということです。新ラグジュアリーという、まだ「答え」のないテーマを考え続けることで、目の前の現象や経験の意味もそれに呼応するように収斂していくことがあるという「人体実験」のような話でした。
連載:ポストラグジュアリー 360度の風景
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