イタリアの自転車屋の事業承継がセンスとヒントに溢れている理由

ドラーリの自転車


静かでロマンティック。こうした性格をもつ自転車は、彼にとって絶好のパートナーです。「正直言うと、ぼくは速く走る機能にあまり興味がない。お客さんは求めるけど」と彼は笑います。

彼とドラーリ家とは、血縁関係にありません。また、実は彼自身は、世界に名の知れたトップファッションのメーカーのボードメンバーでもあります。しかし、それとは別に、同世代の友人3人と会社をやっている。3人は2015年にこれまでの職業人生を振り返り、新たな道を探そうと起業したのです。1人は経営工学、カメラーナさんを含む2人は農学の出身です。

問題解決も、文化づくりも


彼らがコンサルティングや投資・経営参加してきた会社のサイトを見ると、ある共通の匂いを感じます。テイストも少々ノスタルジックでもあるのですが、どれも、歴史のあるネタを今の時代にアップデートし、世の中の主流ではないものの、しかるべき位置であるべき姿を示しているのです。

ひとつは、シャイノラ(Shinola)という米デトロイトで時計や雑貨の製造販売、ホテル経営をする企業ですが、彼らはこの会社のイタリア進出に手を差し伸べました。フィルソン(Filson)という米国のアウトドア用品のメーカーに対しても同様に、イタリア市場開拓の手伝いをしました。また、ゼロから投資と経営に関わった最初の企業としてはファッサマーノ(Fassamano)があります。手でもつ眼鏡を開発販売しているイタリアの会社です。

どの会社の商品もセンスが良いし、遠い過去の時間を思い出させてくれる。現在は上記の企業からは手が離れていますが、その後、自転車のドラーリに経営参加した理由が、これらの会社のサイトを見ていると自ずと想像できます。

「それは言えるね。歴史を感じさせ、ローカルを重視し、クラフト感があるという共通性がある」と語るカメラーナさんは、ドラーリの自転車を愛用する男性は機械式のクラシックな時計好きが多いと言います。「自転車屋のおやじ」として、コンテクストをよく見極めています。



ただし、実業家として、このような「文化をつくる良き趣味」の世界だけに没頭しているのでもありません。テクノロジーを基盤においたビジネスにも投資をしています。飲食店のために一括して農産物や用品を卸すオンラインシステム、人々の健康管理に関わるシステム、こうした分野に携わるスタートアップ企業もサポートしているのです。
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文=安西洋之(前半)、中野香織(後半)

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