イタリアの自転車屋の事業承継がセンスとヒントに溢れている理由

ドラーリの自転車


ドラーリという自転車をめぐるビジネスの世界は、新しいラグジュアリーの世界観として見ると、このうえなく理想的ですね。

下町で愛された自転車店を、よき趣味を理解する3人の仲間が受け継いでいく。自転車は「アマチュアで最高峰」の走りをするほどに洗練されており、3人の経営者仲間は「静かでロマンティック」な自転車を愛し、社会課題を解決する他のビジネスを手掛けながら、ほどよいサイズ感で仕事をしている。彼らの周囲には、世代と問わず感じのよい人を介して風通しの良いコミュニティが形成され、その先にビジネスが自然に好循環を生んでいく。

歴史のモダンな継承、手作り工房、ロマン主義、量より質、日々の快適、ローカリティ、人間尊重、コミュニティ、世代を超えた「We」の風景などなど、新しいラグジュアリーを描くときに浮上する要素がすべて無理なく揃った風景は、映画になりそうなほど素敵です。こうした具体例は、新しいラグジュアリーを模索する人々にとって、インスピレーションとなるでしょう。

この美しい理想にコメントのしようもないので、今回は「自転車」「歴史のモダンなアップデート」「次世代継承」という3つのキーワードを拾い、それぞれに関して新しいラグジュアリーの観点から最近の見聞や体験を見直してみる、という実験を行ってみました。

自転車と文化的アイデンティティ


クラフト感のある自転車はブームにもなっているようですね。ファッション系のインスタグラマーが自転車とともに映る写真が目に留まることが増えました。部屋の中に自転車が飾られたインテリア写真も目にします。

感度の高い服飾品を中心に扱う日本のセレクトショップ「エストネーション六本木ヒルズ店」も、今秋、「マイケル ブラスト」の電動アシスト自転車の取り扱いを始める予定です。実は、展示会でどんな服よりもひときわ「今」の空気を放っていたように見えたのが、ほかならぬこの自転車でした。

20世紀初頭のモーターつきの自転車からヒントを得たという歴史を活かしたルックスに、最新のテクノロジーを組み込ませた「ネオ・ビンテージ」スタイルが、新しい都市の風景を作る予感を抱かせます。服そのものに新鮮な時代感覚を見ることが難しくなった今、自転車がその役割を担いつつあるのだろうかと深読みしたくなったほどです。


エストネーション六本木ヒルズ店が秋から扱う予定のマイケルブラストの電動アシスト自転車。予価37万4000円(参考モデル)

「マイケル ブラスト」という製作チームのありかたにも、風通しのよさを感じます。オーストラリアを拠点としながらフランス、アメリカ、カナダ、ハンガリーといった異文化混成のユニークな製作チームで、「国」を超えたクールで自由でファンキーな層のアイデンティティに刺さるブランド、という印象を与えています。
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文=安西洋之(前半)、中野香織(後半)

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ポストラグジュアリー -360度の風景-

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