このようなエネルギー政策の決定の結果、ドイツ、フランス、その他のEU諸国は2月末のロシアによるウクライナ侵攻で、ロシアのエネルギー産業に対する効果的な制裁措置をとることが実質的に不可能になった。また、エネルギー安全保障がないため、プーチン大統領の地政学的パワーの影響を受けやすい。インドや中国などの輸入国は制裁の対象外であるため、ロシアは侵攻以来、取引先を欧州からアジアなどへと徐々に置き換えてきた。
欧州がエネルギー安全保障と地政学的な影響力を欠くようになった結果、2月24日のウクライナ侵攻後の最初の100日間で、ロシアの石油収入が過去最高水準に達したと米ワシントンポストが先週報じた。独立機関Center for Research on Energy and Clean Air(CREA)の調査によると、中国が最大の輸入国で、その期間に130億ドル(約1兆7560億円)以上の化石燃料を購入した。約126億ドル(約1兆7020億円)のドイツがそれに続いた。
ロシアの天然ガス輸出でも同期間に同じような動きが見られた。フランスはロシア産の液化天然ガス(LNG)の最大の輸入国であり、ドイツはロシア産天然ガスをパイプライン経由で最も多く輸入している。
この2国はバイデン政権が掲げるエネルギー転換のためのグリーンニューディール政策に忠実であるため、天然ガス供給の見通しはさらに苦しいものになりそうだ。ドイツ、フランス、そして天然ガスを輸入するその他の欧州の国々は、安価なロシア産天然ガスに代わって、コストの高い米国からのLNG輸入に大きな期待を寄せている。
米国の産業界はそのニーズを満たすことを望んでおり、バイデン大統領が3月初旬の記者会見でそう約束したのはよく知られている。しかし、規制当局は、欧州のニーズを満たすために必要な重要なパイプラインとLNG輸出インフラの拡張を促進するために軌道修正して迅速に許可を出すつもりはないことがその後はっきりした。残念なことに、バイデン氏が大統領である限り、米国は欧州が天然ガス供給でロシアから独立するために必要な信頼できるパートナーになる見込みはない。
これらの不幸な、しかし非常に予測しやすい結果は、欧州、そして今では米国が希望的観測に基づくエネルギー移行政策の決定に忠実であることに起因している。このような考えが西側諸国の政府の間で支配的であり続ける限り、前述のようなニュースが欧州から次々と流れ出し、世界のエネルギー危機を今以上に破滅的なものにし続けることを覚悟しなければならない。