経済・社会

2022.06.17 14:30

習近平の指南役だったバイデン、仇敵になった理由とは

縄田 陽介
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確かに、中国の姿勢は強硬になっている。中国の専門家は20世紀のころ、民主主義の価値を認める一方、巨大な中国を一つにまとめていくため、今はまだ「その時」ではないと説明していた。ところが、最近では「欧米諸国の民主主義など、選挙だけではないか。選挙が終われば、途端に独裁に走り、やりたい放題だ」と批判する。そして、中国の政治体制について「我々はall process democracy(全過程民主主義)だ」と強弁する。「選挙こそないが、いつも民衆のことを第1に考えた政治を行っている。新型コロナウイルスを見ろ。民主主義だという米国では100万人も死んでいる。我々は5千人。どちらの政治体制が優秀か、はっきりしているではないか」とし、西欧の民主主義とはっきり決別する姿勢を示している。米国人が「普遍的な価値」だと信じる民主主義や人権主義を否定されて、黙っているわけがない。

もともと、バイデン氏は習近平氏を憎からず思っていたという。オバマ政権時代、バイデン氏が副大統領だったとき、国家副主席だった習近平氏と会談した。そこで、バイデン氏は「あなたはもう少し、retail politicsを学ぶべきだ」と語りかけたという。要するに、仏頂面で威厳にこだわる姿勢を捨て、もっと大衆と触れあい、ハグし、語り合うべきだとアドバイスした。習氏はその後、多少、市民たちと触れ合う機会が増えたようで、バイデン氏はその様子をニュースで見ながら、「俺のアドバイスが効いたようだ」と喜んでいたという。

しかし、米国の雰囲気は変わった。中国は南シナ海や東シナ海で「法の支配」を無視し、一方的に現状の変更を図ろうとしている。香港や新疆ウイグル自治区では、市民を弾圧し、深刻な人権侵害を引き起こしている。オバマ政権を継いだトランプ大統領も当初は、習近平氏に親近感を持っていたが、徐々に激しい嫌悪を感じるようになった。習近平氏、ドイツのメルケル首相(当時)、韓国の文在寅大統領(同)が、トランプ氏の苦手な首脳の代表格だったという。

バイデン氏の「台湾軍事介入」発言は、こうした中国に対する米国の激しい嫌悪を代表したものだと言える。米国の民意を敏感にすくい取ったという意味で、まさに「ワシントンの永田町男」の面目躍如とも言えるだろう。

ただ、問題は、中国と戦う決意を裏付けする緻密な戦略が,今の米国にあるのかどうかという問題だ。バイデン氏は歴訪時、日韓に対して、新しい経済協力の枠組み「IPEF」への参加を呼びかけた。だが、IPEFが一体、どういうものなのか、詳しい説明はなかった。

バイデン氏の決意や良し。しかし、怒りにまかせて突っ込んだケンカでは不安が残る。同盟国を含む関係諸国には、丁寧で緻密な説明がもっと必要だろう。

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文=牧野愛博

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