岩波ホール最後の上映作品 「歩いて見た世界 ブルース・チャトウィンの足跡」

『歩いて見た世界 ブルース・チャトウィンの足跡』6月4日(土)より岩波ホール公開 / (c)SIDEWAYS FILM

岩波ホールが閉館する。各メディアで「日本のミニシアターの草分け的存在」と報じられているが、客席は200前後あり、けっして「ミニ」ではない。1968年の開館当初は演劇なども上演する多目的ホールとして運営されていたが、1974年、総支配人だった高野悦子などが主宰する「エキプ・ド・シネマ」に連動するかたちで、映画館としてスタートする。

「エキプ・ド・シネマ」とはフランス語で「映画の仲間」という意味で、日本で紹介されることの少ないアジアやアフリカや中南米の作品や、大手の映画会社が配給しない欧米の作品など、ともすれば埋もれてしまいそうな良質の映画を積極的に上映するという活動だ。

このポリシーのもと、のちに名作と言われる数々の作品が岩波ホールでは上映されてきた。「惑星ソラリス」(1977年上映)、「旅芸人の記録」(1979年上映)、「ファニーとアレクサンデル」(1985年上映)、「芙蓉鎮」(1988年上映)など映画史に残る作品のほか、「ルードヴィヒ」(1980年上映)や「八月の鯨」(1988年上映)などは大きな反響を得て何週にもわたるロングランを記録した。

その岩波ホール最後の上映作品となるのが、「歩いて見た世界 ブルース・チャトウィンの足跡」だ。監督は、過去にも岩波ホールで「アギーレ・神の怒り」(1983年上映)が公開されたこともあるドイツのヴェルナー・ヘルツォーク。かつてニュージャーマンシネマの旗手と言われたヘルツォーク監督がメガホンを取る、世界を旅して執筆を続けた作家、ブルース・チャトウィンの軌跡を追ったドキュメンタリーだ。

ブロントサウルスの皮


ブルース・チャトウィンは、1940年、イギリス中部の工業都市シェフィールドに生まれる。幼い頃から先史時代の人類の文化に興味を持ち、「サザビーズ」で美術鑑定士としてキャリアを積んだあと、エジンバラ大学で考古学を学ぶ。その後は世界の辺境を歩き、1977年、南米大陸の「パタゴニア」を舞台にした同名の小説で作家としての出発を果たす。
次ページ > 48年で5つの小説を

文=稲垣 伸寿

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事