「うる星やつら」は究極のダイバーシティ社会を実現している

ビジネスも人生も、漫画が教えてくれた──。

経営者が座右の書とする漫画作品を紹介する連載「社長の偏愛漫画」。自身の人生観や経営哲学に影響を与えた漫画について、第一線で活躍するビジネスリーダーたちが熱く語ります。

初回は、リスナー19万人のポッドキャスト人気歴史番組「コテンラジオ」パーソナリティで、COTEN代表の深井龍之介が登場します。聞き手を務めるのは、漫画を愛してやまないTSUTAYAの名物企画人、栗俣力也。


『うる星やつら』は究極のダイバーシティ社会を実現している



©️高橋留美子/小学館


栗俣力也(以下、栗俣):これまでの人生で最も漫画にハマったきっかけは?

深井龍之介(以下、深井):漫画に一番ハマっていたのは中高生時代だと思います。漫画はいまでも好きなのですが、いまは本を読むことで精一杯なので、どうしても、ほかの好きなことに割く時間は限られます。

若いころはすごく読んでいました。僕の世代(1985年生まれ)より一つ前の世代の漫画がけっこう好きです。『うる星やつら』(1978〜1987年連載)もそうですね。

栗俣:深井さんの世代だと、高橋留美子作品でいうと『犬夜叉』のほうを読まれていたのでは?

深井:『犬夜叉』は、高校生のときに『週刊少年サンデー』で読んでいました(1996〜2008年連載)。『ONE PIECE』は僕が最初期世代(1997年〜連載中)ですが、それより前の漫画が好きです。『うしおととら』(藤田和日郎作、1990〜1996年連載)、アニメ『忍たま乱太郎』の原作漫画『落第忍者乱太郎』(尼子騒兵衛作、1986〜2019年連載)、『めぞん一刻』(高橋留美子作、1980〜1987年連載)などですね。

僕は『ドラゴンボール』や『ONE PIECE』のような勧善懲悪の話が好きではなかったので、ひと昔前の漫画をコミックスで読んでいました。どちらか一方が正しい、という話には感情移入できなくて。全キャラに愛情を感じられるような作品が好きなんです。

栗俣:そこは、深井さんの歴史の語り方に通じますね。

深井:そうだと思います。昔から、物事の根本的な見方はあまり変わっていないかもしれません。こういう時代背景と環境に、こういう特性の人間を放り込むとそうなるよね──という見方。『うる星やつら』は、まさにそういう感覚の作品です。

高橋留美子さんの作品は、一人ひとりキャラが尖っています。その尖った人たちを複数ボンと放り込むと何が起きるか、という見方をしています。僕の歴史の見方も、そういう感じです。

『うる星やつら』には、悪態ばかりついている二重人格の女の子(ラムの友達ラン)もいれば、とんでもない食いしん坊の僧侶「錯乱坊」(通称「チェリー」)もいます。主人公の諸星あたるなんて、ただの女好きです。

栗俣:高橋留美子さんは、そういうキャラの描き方がめちゃくちゃうまい。

深井:キャラに限らず、生きている人間が全員そうだと思うのです。人間もいろいろ理屈をつけたりするけれど、実際はあんな挙動をしている感覚があります。そこに、逆に強いリアリティを感じています。

リアルな世界で生きる僕たちは、「こんなことを言ったら周りの人から嫌われる」と忖度し、自分の欲求にブレーキをかけます。諸星あたるやチェリーは、空気を読んで葛藤することなんてありません。己の欲求にドライヴをかけ、自由奔放に振る舞います。尖って面倒くさい人間であろうが、誰ひとりとして置き去りにしない。駄目な人間まで含めて、すべての存在に愛情を注ぎこむ。

そんな群像劇としての『うる星やつら』に、僕はたまらない魅力を感じるのです。


深井がパーソナリティを務める「歴史を面白く学ぶコテンラジオ」はApple Podcast第1位獲得、ジャパンポッドキャストアワード殿堂入りの超人気番組。

深井:「もっと出世したい」「あいつよりよく思われたい」「好きな人に振り向いてもらいたい」「もっと気持ちをわかってほしい」。さまざまな欲求に駆動された僕たちの挙動とナルシシズムは、あたるやラム、ランやチェリーそのものではないでしょうか。

いまを生きる僕たちも、歴史上の人物も、皆『うる星やつら』の登場人物のようだったはずです。たったひとりの神が、人間の行動をすべてコントロールしているわけがありません。それぞれの特性をもった人間がバラバラに動き、結果的に歴史がかたちづくられていく。

歴史をつくる当事者一人ひとりにフォーカスしてみると、皆が憎たらしくも愛らしい個性のもち主なのです。
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栗俣力也=インタビュー 荒井香織=文

この記事は 「Forbes JAPAN No.094 2022年月6号(2022/4/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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