ビジネス

2022.06.14

利用者のフィードバックが「動機」 企業価値1兆円のデザインツール

「Figma」の共同創業者でCEOのディラン・フィールド

弱冠30歳のディラン・フィールドは、Figmaを企業価値100億ドル(約1.1兆円)の、現在最も注目すべきデザインソフトウェア・スタートアップに成長させた。


2021年4月、「Figma」の共同創業者でCEOのディラン・フィールドは、およそ10年前、起業に専念するためにブラウン大学をドロップアウトして以来の、最も慌ただしい日々を過ごしていた。

FigmaはエアビーアンドビーやBMW、Zoomといった会社が利用している急成長のデザインソフトウェア企業で、その日はオンライン会見で彼らの2番目となるプロダクト「FigJam」を発表していた。オンライン会議やセッションで使えるホワイトボード・ツールだ。その数時間後、フィールドは妻エレナの第一子妊娠を知らされた。

フィールドは、パンデミック中のほとんどの時間を、Figma利用者の話を聞いて過ごした。さらに、カスタマーサポートとユーザーのメールやチャットのやり取りを読んだり、営業担当者のフィードバックに目を通したり、Twitter上でFigmaへの言及を検索し、ユーザーに返答したりした。Figmaは、仮想空間でのキャンバスだ。デザイナーや関連する人たちが、リアルタイムでビジュアルを共有しながらデザインを作っていくことができる。

しかし、初期段階にアイデアの線図を描いたり、フローチャートを作ることはできなかった。そこで、FigJamが生まれた。ポストイットのメモがたくさん貼り付けてあるオフィスの壁の、デジタル・バージョンだ。

プロトタイピングと、NetflixやStripeといった顧客とのテスト運用を6カ月にわたって繰り返した後、FigJamのベータ版が公開された。これからどんどん製品を進化させていくことを前提に、25%の完成度で製品を世に出した、とフィールドは言う。「十分にやり終える。それは市場が僕から製品を取り上げることを意味します」。

アドビがデザイナーのためのソフトウェアとして確固たる地位を築いたのは、1980年代のことだ。それから約40年、米フォーブスが昨年発表したクラウド100ランキングの7位に2012年創業のFigmaがランクインした。競合には、InVision(52位)やヨーロッパ発のSketchもいる。

Figmaはすでに100万人を超えるユーザーを抱えている。関係者によれば、21年の年間経常利益は7500万ドル(約86億円)だった20年から約2倍になるという。

20年、ジョー・バイデン大統領の選挙キャンペーンのビジュアルアセットは、すべてFigmaを通して作られたことでも話題となった。また、パンデミックの影響でトイレット・ペーパーが全米から姿を消したとき、衛生用品メーカーのキンバリー・クラークは再注文フォームをFigmaのツールで制作した。
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文=アレックス・コンラッド 写真=ガブリエラ・ハスブン

この記事は 「Forbes JAPAN No.092 2022年月4号(2022/2/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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