旅の概念が劇的に変化 いま「着地型観光」が人気のワケ

1200年以上前に朝廷に献上された歴史を持つ生産地でのお茶摘み体験


とはいえ、既にその構想は事業として走り始めており、前述の審査会では地域に根付いた企業として、神姫バスが受託事業者に選ばれた。選考の決め手となったのは、プレゼンテーションの際、会社の代表者が語った「私たちの歩んできた歴史は、地域との共生そのもの。だからこそ『地域の本質』を繋いだ、私たちならではの一期一会の旅を提案したい」という言葉だった。

そんな彼等でも、初年度は、既にでき上がっている「観光商品」を売るという行為とは程遠い、これほどまでに手のかかる、労力を費やさなければならない事業になるとは考えていなかったと思う。私も地域に彼等と一緒に入り、どうしたらお金のとれるサステナブルな観光資源になるかについてのアドバイスを行う際、特に初年度は、現地の人たちというよりもコーディネート側の彼等に対して、かなり事細かな指導をさせていただいたと記憶している。

例えば、丹波篠山(たんばささやま)の味間奥(あじまおく)地域に、実は1200年以上前に朝廷に献上された、知る人ぞ知る素晴らしいお茶の生産地がある。しかし、それをこの地域ならではの、いわゆるわざわざ足を伸ばしても行きたい観光資源とするためには、産地や産品の特徴や歴史を深く紐解き、魅力的な物語として紡ぎ、より上質で高付加価値のある(要するに高い値段をつけられる)ツーリズム体験にする必要があった。



そのためには、まずは現地の人々の意識をとりまとめ、ファームツアーとして茶畑や加工工場見学などの体験の満足度を高めなければならなかった。そのほかブランド力の定着のため、著名な煎茶道の家元による体験と組み合わせ、そこでしか味わえない「美食旅」を構築するなど、一回限りではない持続可能な仕組みづくりも必要となった。

さらには地域全体にも何らかの経済循環が生まれるよう、食や宿泊など他の体験コンテンツも組み合わせるなど、できるだけ長く地域に滞在してもらえる魅力的な旅のプログラムやコースに仕上げて行くことも重要だった。当然、当事者である地域住民の協力も必要だし、それらを魅力的に語れるガイドや語り部のスキルアップも必須となる。こういったことごとを丁寧に地域とともに創り上げる行為こそが、まさに着地型観光造成の礎になっていくのだ。
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文=古田菜穂子 写真提供=丹波篠山観光協会

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地域と観光が面白くなる新局面

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