開会の挨拶ではデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリーのマネージングディレクター・永松博幸が、「私たちは単なる会計事務所としてではなく、会計事務所を出自とする総合プロフェッショナルファームとして日々の業務を通じて築いたネットワークをフル活用し、スタットアップのステージに応じたさまざまなプロフェッショナルサービスを提供したい」と、スタートアップ支援への取り組み、そしてこのイベントに賭ける意気込みを述べた。
デロイト トーマツ ベンチャーサポートのCO0・木村将之は「このイベントを通じてスタートアップまわりのエコシステムをさらに強化し、海外進出を強く支援していきたい」と、このイベントから始まる展開へ期待を滲ませた。
左|端羽英子(ビサスク代表取締役CEO)、右|北野宏明(ソニーコンピュータサイエンス研究所代表取締役社長/所長)
基調講演には、昨年、米・Coleman Research Groupを約112億円で買収したことで注目を浴びたビザスクの代表取締役CEO・端羽英子が登壇。世界7カ所に拠点をもち、「世界で一番のナレッジプラットフォーム」になることを標榜する同社は、その背景には、ある海外企業の代表者から「日本人は知見をもっているのに外に出てこない」と言われ、世界の情報戦のなかから日本が取り残されてしまうとの危機感をもったエピソードを披露した。創業時に「初めから世界を見よう」とバリューを掲げていたことや、社内における海外への挑戦の土壌を醸成するのが大事だと、海外進出の秘訣を続けた。
特別講演にはソニーコンピュータサイエンス研究所の代表取締役社長/所長・北野宏明が登壇。内閣府が策定した「AI戦略2022」の趣旨を説明しつつ、2030年代に起こると予想されている南海トラフ巨大地震といった日本が抱える地質学的・地政学的リスクへの対処法を紐解きながら、ライフサイエンス、バイオテクノロジーに関連する最近のブレークスルーについて、「各国で新型コロナワクチンが急ピッチで開発されたように、ライフサイエンスの発展は、あらゆる分野で課題を解決してくれる可能性を秘めている。研究者が仲間をつくること、つまり投資してくれる人を巻き込みながら課題解決のムーブメントを起こしていくことが、地球規模の課題を乗り越える鍵となる」と語った。
パネルディスカッション「Fast50から見たテクノロジーを活かした成長企業の動向」
パネルディスカッション「Fast50から見たテクノロジーを活かした成長企業の動向」には、SHIFT取締役・小林元也、Macbee Planet代表取締役社長・千葉知裕、AI inside代表取締役社長CEO兼CPO・渡久地択が登場。
「Fast50」とはDeloitte Private Japanが主催する日本国内のTMT(テクノロジー・メディア・通信)業界の、過去3決算期の収益(売上高)に基づく成長率の上昇が著しい日本企業(上場・未上場問わず)を表彰するランキングプログラムで、登壇した3社はいずれもここに複数回ランクインしている企業。そんな3社が、社会課題を解決しながら自社が成長を遂げている要因や、今後の成長に向けての戦略についてパネルディスカッションを行った。
パネルディスカッション「ディスラプティブなスタートアップの挑戦」には、パネリストとしてパワーエックスの取締役兼代表執行役社長・伊藤正裕、HOMMA Groupの代表取締役・本間毅が登壇した。本セッションは「日本とシリコンバレーを結ぶ懸け橋になりたい」という思いから、両地域を代表する起業家・投資家・経営者が交流する場をつくることを目的とした非営利団体、シリコンバレー・ジャパン・プラットフォーム(SVJP)との共同セッション。グローバルに挑戦するスタートアップであるこの2社が「日本発でディスラプティブなビジネスモデルをもつスタートアップはどのように生み出され、成長させるのか」をテーマについて語り合った。
2社は業種こそ異なるものの、将来のビジョンを具体的に描き、それを実現するために長期的目標と短期的目標の両方を立てて進んでいる点で共通している。そのうえで、本間は「大きな目標を掲げながら小刻みに結果を出していくこと」の重要性を説き、伊藤も「3年が目安。3年以内に実現できる事業を積み重ねていって大きな結果を出す」と、スタートアップに向けたアドバイスとも取れるようなコメントを述べた。
パネルディスカッション「日本のスタートアップエコシステム発展のために」
パネルディスカッション「日本のスタートアップエコシステム発展のために」には、経済産業省新規事業創造推進室長・石井芳明、グローバル・ブレインCEO・百合本安彦、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリーJapan Clients Executiveのシニアマネジャー・池田秀斗(駐在先のイスラエルからリモート参加)が登壇。日本国内におけるスタートアップエコシステムの将来像について鼎談を行った。
石井は「スタートアップに失敗はつきもの。失敗したときに許される土壌や、再チャレンジしやすい環境を社会全体でつくっていきたい」と、行政の視点からのサポートについて語った。百合本も「起業家教育のエコシステムを確立していくことが求められている。いまの日本は、起業の仕方は誰でも学びやすい環境が整っているが、成功の仕方を教える環境は整っていない」と指摘し、今後のスタートアップ育成に必要なものを再確認した。
「Entrepreneurs’ Organization(以下、EO)パネルディスカッション」には、EO Tokyo Central26期理事の岩井裕之(かっこ代表取締役社長CEO)、同統括理事の古賀徹(MEJ代表取締役社長)、同統括理事の文字放想(アップル代表取締役)が登壇した。
EOとは、年商1億円を越える会社の若手起業家が集まる世界的ネットワークで、現在62か国196チャプター、14,674名のメンバーによって構成されている団体。そのなかでもEO Tokyo Centralは現在386人の起業家が在籍している。
岩井によれば、EOに登録する意義は「経営者が自分個人だけで成長しようとしても限りがある。本やそのほかのメディアから情報を得るよりも、さまざまな経営者との交流でこそ得られるものがあります」とEOの意義について語り、文字も「組織のつくり方や人の動かし方、数字で表せないことを勉強できる場。起業家が起業家を成長させる場」と、EOを成長の場と位置付けた。古賀は「経営者は孤独だといわれがちで、苦悩も抱えやすいが、そういった状況をなくしていきたい」と、今後も活動を続けていく目的を語った。
ピッチセッションに新進気鋭のスタートアップが登壇!
左から、翁詠傑(PJP Eye Director/CIO)、德重徹(Terra Motors取締役会長)、酒井里奈(ファーメンステーション代表取締役)
また、本イベントでは基調講演やパネルディスカッションと合わせて、スタートアップのピッチセッションと、スタートアップと大手企業との個別ブースでのマッチング面談も実施された。
ピッチセッションとは、新進気鋭のスタートアップが来場者と視聴者の前で5分間のプレゼンテーションを行い、自社の事業とそのスケジュールを紹介する企画。以下の20社が参加した。
PJP Eye/Arithmer/DATAFLUCT/PocketRD/アルガルバイオ/インフィック/ピリカ/Digital Entertainment Asset Pte.Ltd./ワープスペース/データグリッド/TBM/CyberneX/アスエネ/oVice/Psychic VR Lab/ファーメンステーション/東京ロボティクス/SEQSENSE/グリーンカルチャー/Terra Motors ※登壇順
ピッチセッションに参加した20社それぞれに用意されたブース。
今回のピッチセッションに参加したスタートアップのなかから、3人にコメントをもらった。
PJP Eye Director/CIO・翁詠傑:「アメリカ、イギリス、ドバイなどいくつものスタートアップ向けのマッチングイベントに参加させてもらってきました。これらのイベントと比べて今回のカンファレンスの魅力的となっているのは、信頼できる大手企業の方々が多く集まっていること。国内の有名企業とネットワークをもつデロイトトーマツグループだからできることだと感じました」
Terra Motors取締役会長・德重徹:「こういったイベントに参加させていただく機会は少なくありませんが、企業との面談では、電力系やテーマパークなどそもそも弊社の事業とマッチ率の高い企業と、実現度の高い話も生まれました。また、例えば旅行や地図業、そして地方行政などこれまで想定していなかった業界からコンタクトを受けて、こんな角度からのブリッジの可能性もあるのだと、新たな気づきを得ました」
ファーメンステーション代表取締役・酒井里奈:「当社では、独自の発酵技術で未利用資源を発酵・蒸留してエタノールを製造しています。積み上げた技術をより活かすため、今後より未利用資源の活用の範囲を広げて事業を拡大していきたい。そこで求めているのが、大手企業との共創です。製造工程でどうしても出てきてしまう例えば果物の搾りかすや穀物・野菜の加工残さ等を活用し、共創することで再生・循環していけたら、というビジョンをもっています。今回7社と面談をさせていただき、新たな未利用資源の活用の可能性を話し合いました」
前田善宏(デロイト トーマツ グループ執行役CSO)
閉会挨拶では、デロイト トーマツ グループ 執行役 CSO(2022年6月~)・前田善宏が「このイベントは2年前から温め続けていた企画です。2020 年以降、コロナ禍となりリアルでのイベントの開催が難しい状況が続いていました。基調講演やパネルディスカッションをライブ配信したり、オンラインでピッチイベントを実施したりすることも確かに可能ではありました。しかし、やはりスタートアップと大手企業のマッチングはリアルの会場ならではの醍醐味があると強く感じていたのも事実。開催のタイミングを見計らっていました。本日、このように実施できたことはとても喜ばしいことです。今後は、起業に関心のある学生支援の活動にも力を入れていきたいです」と述べ、イベントを締め括った。
自社単独で新規事業に取り組むことは大企業でも難しい。いくら優れた技術やプランがあっても、スタートアップだけでそれを達成させるのも困難だ。今回のイベントは、双方にはっきりとしたメリットを提示し、確度の高いマッチングが行われる場を用意したことに最大の意義がある。「デロイト トーマツ アントレプレナーサミット・ジャパン 2022」は、スタートアップと大企業のサポーター、それぞれの未来への可能性を模索する絶好の機会となったはずだ。
デロイト トーマツアントレプレナーサミット・ジャパン 2022
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