経済・社会

2022.06.13 18:00

LGBTQフラッグに新色追加をめぐる声 「われわれの虹の旗を穢すな!」も

2020年6月、50回目のプライド・パレード時、ボストン、マサチューセッツ州会議事堂に掲げられたプログレス・フラッグ (BOSTON GLOBE VIA GETTY IMAGES)

今月6月は「プライド月間(Pride Month)」。世界各地でLGBTQ+の権利啓発を目指したイベントが開催される。近年では実業界にもそのうねりは及び、多くの企業が、キャンペーンなど独自の活動を行っていることはよく知られている。

ギルバート・ベイカー考案の「あのシンボル」から「プログレス・フラッグ」へ?


さかのぼること2020年、ロンドンでは希望を表す世界共通のシンボルである虹がNHS(イギリス国民保健サービス)の職員との団結を示すために掲げられ、LGBTQの世界のシンボルである6色ストライプのLGBTのプライド・フラッグとまぎらわしいと物議をかもした。


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赤、オレンジ、黄、緑、青、紫の6色を使ったギルバート・ベイカー考案の旗は、42年間、LGBTQコミュニティのシンボルとして世界各国で認識されてきた。


2022年6月4日、イタリアでのプライド・イベントでプログレス・フラッグを掲げる参加者 (Photo by Ivan Romano/Getty Images)

ところが2020年ごろから、世界中のプライド、ブランド、LGBTQ活動家たちが、まるで示し合わせたかのように「プログレス・フラッグ」と呼ばれる新しいプライド・フラッグをコミュニティのシンボルとして新たに採用し始めたのだ。

2018年にダニエル・クエイザーがデザインしたプログレス・フラッグは、もとの6色に有色人種を表す黒と茶色、そしてトランスジェンダー・フラッグの水色とピンクと白を加えたものである。


2022年6月5日、ウエスト・ハリウッドのプライド・パレードでのプログレス・フラッグ (Photo by Rodin Eckenroth/Getty Images)

ロンドン市長の執務室からボストンでのプライド・パレード、さらにイギリスのサウスバンク・センターといった文化施設に至るまで、LGBTQのシンボルはいま変わりつつある。

それはどれも、コミュニティに幅広いアイデンティティを受け入れようという動きの一環なのだ。

なぜ「5色」が追加されたのか?


コミュニティが新しい旗を採用した理由は様々だが、それに関する話し合いや議論はほとんどされていない。

おおもとはもちろん、新型コロナによるパンデミックであり、パンデミックが人々の考え方を大きく変化させたことにある。

だがそれだけではなく、ブラック・ライブズ・マター、トランスジェンダーに対する差別的発言、そして冒頭に触れた「NHSの虹」に関する論争も大きな要点になった。


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「NHSへの感謝を表す虹はNHSの発案ではなく、第一線で働く人々への連帯感と感謝を示すものとして始まったものだ」とテレビ司会者のドクター・ランジは語る。

「プライド・フラッグに取って代わろうとか、それが意味するものを消し去ろうという意図でないのを忘れてはならない。だが、いまはコミュニティのあらゆる人々を尊重しなければならないことを認識すべきときであり、プログレス・フラッグに移行するいいきっかけなのかもしれない」

プライド誕生に貢献した「クィア(QTPOC)」を讃える


ロンドンのサディク・カーン市長は、2年前から市庁舎にプログレス・フラッグを掲げていることを誇りに思っていると語る。

「ロンドンは、多様性と差異が賛美され、受け入れられる街だ」と市長は言う。「LGBTQ+コミュニティはこの街の生活に多大な貢献をしており、プライドの祝典がそのコミュニティの多様性を反映する機会になることがとても重要だ。

この旗は、コミュニティ内の多様なジェンダー・アイデンティティに加え、プライドが生まれるきっかけになる活動を行った有色人種を讃えることで、LGBTQ+コミュニティ内の交流を正当なものであると認める意味がある」


ロンドン市長 サディク・カーン氏(Getty Images)

トリニダード・トバゴで反LGBTQ法の廃止を成功させた(政府による不服申し立ての結果によっては復活する可能性もあるが)活動家のジェイソン・ジョーンズは、パンデミックが新たな現実をもたらしたと言う。

「たとえばブラック・ライブズ・マター運動など、多くの活動がパンデミックの恩恵を受けている。それはもちろんLGBTQ+運動とも相互作用しており、ようやく性的指向や性自認、人種などが非典型的な人々であるクィア(QTPOC)とその問題が認識されてきたことになる。

有色人種のクィアである私は、プログレス・プライド・フラッグを採用するコミュニティがますます増えていくことに希望を持っている。われわれにとっては大きな前進だ」

われわれの「虹の旗」を穢すな!


だがライターでクリエイターのラダム・リドワンは、プログレス・フラッグに対するコミュニティ内からの反発を忘れられない。

「トランスジェンダー活動家、とりわけ有色人種の活動家たちは2018年からプログレス・フラッグを使っている。だが、それがイギリスで広く知られるようになったのは最近のことだ」とリドワンは言う。

使われはじめた当初は、ゲイコミュニティから多くの反発があったという。

「ジェンダーと人種はセクシュアリティとは違う!」「われわれの虹の旗を穢すな!」といった声がSNSで多くあがった。

あるドラァグクイーンは、マンチェスターの人気ゲイバーのイベントポスターに黒と茶色のストライプの反吐を吐くユニコーンを描いた。


当時ペギー・ウェセックスは〈ゲイ・スター・ニュース〉のインタビューに、「色を加えることにしたマンチェスター・プライドへのジョークのつもりだった」と語った。〈バー・ポップ〉はのちに、このポスターについて謝罪した。PEGGY WESSEX TWITTER SCREENSHOT | TWITTER

このゲイバーはこの件について、「マンチェスター・プライドが初めて虹に黒と茶色を加えたことへの反発だった」として謝罪した。

「いまでは非トランスジェンダーの白人ホモセクシャル男性のあいだでもこの旗の使用が増えているし、そういう人々が集まるロンドンとマンチェスターのナイトクラブ〈G-A-Y〉などで掲げられることも増えている」とリドワンは言う。

「最近、世界が直面した出来事によって、最も弱い立場にある人々に関わる問題への関心がふたたび高まったと考えたい。プログレス・フラッグの使用により、様々な抑圧への認識が高まって交差する様々な属性をコミュニティが持つことを願っている。

だが、連帯感を示す行動が善良さをアピールするだけの美徳シグナリングになってはならない。イギリスで人種差別主義者やトランスジェンダー嫌いによるコメントが目立ち始めているいま、この気づきを良い変化につなげなくてはならない」

プログレス・フラッグが顕在化させた、「LGBTQコミュニティの現状」


2018年にプライド・フラッグのデザインを考えたとき、クエイザーは旗の持つ意味をさらに高めるために有色人種とトランスジェンダーをもっと強調できないかと考えた。

そして、トランスジェンダー・フラッグのストライプと少数派コミュニティのストライプを新たな矢印の形にして取り入れた。

矢印は前進を示す右向きだが、まだ進歩する必要があることを示すために左端に寄せてある。

「変化を拒絶するのは、コミュニティ内のごく一部、主に非トランスジェンダーの白人ホモセクシャル男性だけがプライドを持つべきだと言い続けるのと同じことだ」とリドワンは言う。

旗のデザインに込められた意味は、LGBTQコミュニティの現状を要約している。

われわれは大きな進歩を遂げてきた、そしてこれからも進歩を続けていくコミュニティである。すべきことはまだ山ほどある。

トランスジェンダーと有色人種だけの問題ではない。バイセクシャル(両性愛者)、パンセクシャル(全性愛者)、アセクシャル(無性愛者)の問題もある。まだ十分に議論されていないジェンダー・アイデンティティ、恋愛的指向、性的指向の広がりに関しても、さらに進歩を遂げていく余地があるのだ。

翻訳・編集=寺下朋子/S.K.Y.パブリッシング・石井節子

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