昨年のセレクトではテーマがひとつに絞られていた(コロナ禍に影響されたという)が、今年はそうではない。また、おすすめ本にはノンフィクションを挙げることが多いゲイツには珍しく、今回はフィクションが半分以上を占めている。選んだ本については、アイデンティティーや権力、未来のあり方など、現代的な問いを追求している点を高く評価している。
ゲイツのコメントも交えながら、5冊を簡単に紹介しよう。
『How the World Really Works』(バーツラフ・シュミル著、未邦訳)
カナダ人の著名な環境経済学者であるシュミルは本書で、人間の生存やグローバルなデータ駆動型経済の効率性を規定する7つの現象について論じている。ゲイツは、人間の生活を形づくっている要因について学びたい人にとって、絶好の入門書だと太鼓判を押している。シュミルはゲイツが「お気に入りの作家」に挙げるひとりで、「さまざまテーマについて確固とした意見をもちながら(中略)、極端な考えに走らない」ところも評価している。
『The Lincoln Highway』(エイモア・トールズ著、未邦訳)
1954年の米国が舞台の小説。過って人を殺めてしまった18歳のエメットは、矯正施設の収容期間を終えて故郷ネブラスカに戻る。父親は死に、母親は数年前に失踪して行方がわからない。エメットと8歳の弟ビリーは、大陸を横断するリンカーン・ハイウェイで西へ向かい、カリフォルニアで新しい生活を始めようと思い立つ。ところが、エメットの施設時代の友人2人が同行することになり、そのせいで行き先は一転、東のニューヨークになってしまう──。「自力でやる旅は州間ハイウェイのように一直線に進むものではなく、アクシデントはつきものだ」(ゲイツ)。