経済・社会

2022.06.10 11:30

北朝鮮で姿を消した3人の高官、危機で問われるトップの度量

Lewis Tse / Shutterstock.com


そして、姿を消した残る2人は李永吉国防相(党政治局員)とクォン・ヨンジン軍総政治局長(党政治局員)だ。于氏を含む3人は、4月25日に平壌・金日成広場で行われた軍事パレードには姿を見せていた。李氏とクォン氏は5月19に死去した玄哲海人民軍元帥の国葬委員会のメンバーに選ばれなかった。玄氏はかつて、金正日総書記の側近を務め、葬儀では金正恩氏自らが棺を担ぐほどの重要人物だった。そんな軍の大物の葬儀に、軍のトップ3(総政治局長、国防相、総参謀長)のうちの2人が参加しないなど、あり得ない出来事だ。李氏とクォン氏は、新型コロナウィルスに感染したか、あるいはコロナを含む何らかの不祥事で更迭された可能性が高い。すでに新たな国防相と軍総政治局長が就任したのかもしれない。
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この状況から推察できることは、北朝鮮の新型コロナウィルスの状況は、国営メディアが報じているような落ち着いた状況ではないということだ。北朝鮮はPCR検査が行き届かないため、発熱者でカウントしているが、そのなかの致死率は0.002%に過ぎない。ワクチンの二次接種率が86%を超えた韓国ですら、致死率が0.13%だ。ワクチン接種を行っていない北朝鮮の致死率が、韓国のそれを大幅に下回るとは考えにくい。おそらく、北朝鮮は新型コロナウィルス感染を巡る住民の不安を抑えるため、意図的に感染データを操作しているのだろう。責任追及を恐れた地方の幹部たちが正確なデータを報告していない可能性も十分ある。

正恩氏が相当に焦っているようだ。朝鮮中央テレビの映像では、マスクを外して余裕をみせているが、これも虚勢といえるだろう。北朝鮮は厳格なロックダウンで対応する構えだが、経済力がない状態でどこまで貫徹できるかは極めて怪しい。米政府系放送局のラジオ・フリー・アジアは2日、北朝鮮が都市部の女性たちに、農村部の田植え作業を手伝う「田植え戦闘」に参加するよう動員令を出したと伝えた。ロックダウンを続ければ、秋のコメの収穫に深刻な影響が出ると懸念したからだろうが、当然、新型コロナの感染拡大につながる可能性がある。

難局に遭遇したとき、トップに問われる資質とは何か。マスクを外して、「俺は神様だから、コロナにかかることはあり得ない」と虚勢を張ることではないだろう。焦るあまりに、周囲に八つ当たりすれば、部下は責任追及を恐れて、正しい助言ができなくなる。こんな状態で、本当に7度目の核実験に踏み切るつもりなのだろうか。
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文=牧野愛博

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