ビジネス

2022.06.09 16:30

成熟が進んだのか加熱だったのか。日本版「非上場クラウド企業トップ20」


株式市場の影響によりファイナンスこそ調整局面を迎えているが、クラウド市場という実需の観点では確実に成長を続けている。国内SaaS上場企業のARRは合計1700億円に急拡大。さらに、富士キメラ総研「ソフトウェアビジネス新市場2021年版」によると、国内SaaS市場は平均成長率13%の成長を維持しており、25年には1兆4607億円と、20年の7818億円とおよそ2倍に成長する見通しだ。

スマートキャンプ社の「SaaS業界レポート」での「SaaSカオスマップ」の掲載サービス数も882と17年の396と比較して倍増している。「日本のSaaS活用については、年々拡大する欧米市場と比較すると、成長の余地は大いにある」と話すのは、スマートキャンプ取締役執行役員COOの阿部慎平だ。

米調査会社のガードナーによると、世界のSaaS市場規模は、1030億ドル(20年)。22年には1450億ドルまで拡大する。「SmartHRクラスのユニコーン・クラウド企業が続々と増えていく可能性は高い」(Coral Capital・ジェームズ)。


同ランキングは、DNXベンチャーズ・マネージングパートナーの倉林陽、セールスフォース・ベンチャーズ日本代表の浅田賢、ALL STAR SAASFUNDマネージングパートナーの前田ヒロ、Coral CapitalCEOのジェームズ・ライニー、Onecapital代表取締役CEOの浅田慎二に協力を得て作成。STARTUP DB調査の評価額、ARRやグロースレートなどの経営指標に加え、市場リーダーシップ、事業成長性、 革新性・ポテンシャル、経営陣・組織を評価し、順位をつけた。ランキング参加辞退企業は、対象外とした。

そうした成長を牽引する存在となるのが、「Cloud20」でも上位を占めている「バーティカル(特定の業界に特化)SaaS」だろう。2位のアンドパッド、4位のatama plus、5位のカケハシ、9位のユニファなどに代表される企業だ。

20年からのトレンドがより加速し、「バーティカルSaaSが『カンブリア紀の大爆発』級に成長する」と予測するのは、前述のOnecapital浅田だ。製造126.6兆円、不動産75.1兆円、ヘルスケア68.6兆円、建設64兆円、金融60.7兆円とそれぞれ巨大市場における、デジタル化の余地が大きいと指摘する。14位のoViceのような「ビジネス・メタバース」の躍進、20位のUPWARDのような営業強化・支援するセールスイネーブルメントといった新たな動きも生まれている。

また、DNX Venturesの倉林は次のように話す。「RevComm、コミューン、FLUX、といったスタートアップのアーリーステージでのARR成長率は上場した先輩企業たちを上回っている。加速度的に成長し続けるSaaS領域のスタートアップ・シーンはさらに拡大する」

さらに、上場クラウド企業におけるM&A(合併・買収)、新規事業開発の動きも本格化するだろう。

「最低成長ラインと言われる、『ARR100億円時に30%成長』のメンドーザ・ラインを上回るためにも、SaaSスタートアップの買収や出資が活発化するだろう。1プロダクト拡張でTAM(最大市場規模)を広げる、2既存事業と親和性の高い事業への展開、3自社関連スタートアップへの出資といったトレンドになるだろう。米国のPEファンドのビスタ・エクイティ・パートナーズがマルケト社を買収、再生してアドビ社に売却したような、PEファンドの参入事例も出てくるかもしれない」(UB Ventures・岩澤)

日本の非上場クラウド群にとって、日本でも世界でもスタートアップ業界の「主役」となった流れは不可逆であり、資本市場の調整局面があっても、今後も成熟への流れは変わらない。22年は、「クラウド・スタートアップ・エコシステム」の、さらなる進化が顕在化する一年になるだろう。


SmartHR◎スマートHR 2013年1月設立。15年にクラウド人事労務ソフト「SmartHR」を公開。従業員数は556名。累計調達金額は238億円にのぼる。写真は左から同社CFO玉木諒、COO倉橋隆文、取締役ファウンダー宮田昇始、CEO芹澤雅人。

文=山本智之 写真=小田駿一

この記事は 「Forbes JAPAN No.092 2022年月4号(2022/2/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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