その証拠とも言えるのが、今回の社長交代でもあるだろう。「権限委譲の文化」はどのようにつくられたのか。「2017年、社員数15人くらいの時に、その年の意気込みで『権限移譲していくぞ』というコメントをしていました」と語るのは、宮田だ。16年には、現CEOの芹澤が入社。そして、17年、現COO(最高執行責任者)の倉橋隆文、現CFO(最高財務責任者)の玉木諒が参画する。
「当時は、あまり理想の経営チームが何かわかっていなかったというのが正直なところ。その時に必要な人にきてもらった」と宮田は話す一方で、次のように続ける。「動き始めてから1年近くは採用にかかっている。妥協せず頑張ってよかった。倉橋さんが入社したタイミングがARR1億円を超えたくらい、玉木さんもシリーズBでの調達の直前と、タイミングもよかった」
倉橋も次のように話す。「タイミングのよさはありますね。私はゼロイチは得意ではなく、1を100にする人間。(ARR1億円を超えた時期に)権限委譲され、文字通り『好きなようにやってください』というのが、がっちりはまりましたね。これからは、成長スピードを維持するために、(部下に)より権限移譲して、私は長期戦略を描くといったコーポレート戦略しかやりません」
こうした権限委譲の成熟さを表しているのは、「シリーズDでの資金調達」もそのひとつだ。当時CEOだった宮田は「2〜3%程度」しか関与しておらず、玉木も次のように話す。「通常であれば上場後や早くても上場直前に採用する、IR経験者などを早い段階で採用し、チーム作りをしてきた。自分より優秀な人を採用してチームを作り、そのチームの成果として最大限力を発揮できるようにするという考え方でやってきた」。実際のメイン業務はIR担当者や法務担当者など、各分野のスペシャリストが行っていたという。
新CEOとなった芹澤はいい経営チームを次のように評している。「いまの経営チームは他社で経営をしてきたプロ経営者がいるわけではない。そのメンバーにおけるいい経営チームとは、『皆が成長していけること』だ。組織が拡大し、事業が拡大するなかで、成長する人がいちばん強いので、皆が成長できる環境にあること。経営メンバー同士も切磋琢磨していけるチームがいい。僕自身も成長できなくなった時には退くことを、意識し続けたい」。
芹澤がCEOになり、目指すのは「日本社会における働き方のアップデート」だ。「働く人のポテンシャルを引き出して、生産性を高めていけるタレントマネジメント分野にも進出していく。企業に属する人の働き方を前に進めて、企業の生産性を高める会社を目指したい」(芹澤)
前述の前田は次のように話す。「これからのクラウド・スタートアップにとって、組織、カルチャーの重要性がさらに高まるだろう。資金やナレッジ、ノウハウを得ることへのハードルが下がり、いい企業とそうでない企業の差は、結局『人』だからだ。組織をよくしよう、いいカルチャーをつくろうといった意識を高めないと負ける」。