米『Forbes』の「The Cloud100」を見ると、上位100社の総評価額は5140億ドルと昨年の2倍を記録し、上位10社の評価額合計も1900億ドルと驚異的な数字となった。こうした米国とは大きな差はあるが、日本の非上場クラウド業界も確実に成長し、成熟してきている。
これまでの日本版「Cloud 20」の1位は、クラウド型名刺管理サービスのSansan(18年)、クラウド会計ソフトのfreee(19年)、人材活用のビズリーチ(20年)と、上場後も成長を続けている日本のSaaSスタートアップの先駆者が並ぶ。21年版1位、クラウド人事労務ソフトのSmartHRも、それに続く存在になるだろう。
「日本の非上場クラウド企業の『実質的な基準』となる前例をつくった。資金調達、経営チームの形成、組織やカルチャーの拡張・醸成──。圧倒的なスピードで展開した」と話すのはCoral CapitalのCEOジェームズ・ライニー。そして、優れた非上場クラウド企業の条件としてあげる「1トラクション、2マーケット、3経営陣の3つがすべて満点」と評価する。
SmartHRは21年6月、米ライト・ストリート・キャピタルをリード投資家に、セコイア・ヘリテージ、セコイア・キャピタル・グローバル・エクイティズ、アリーナ・ホールディングスなど、クロスオーバー投資家から、総額156億円のシリーズDの資金調達を実施。評価額は1732億円となった。19年以降始まった、日本の非上場クラウド企業による海外機関投資家からの資金調達における、はじめてのユニコーン(評価額1100億円以上)・ラウンドだ。
事業の成長も、米国で模範的なSaaSの成長といわれている「T2D3(ARR1億円を超えてからの売り上げが前年比3倍、3倍、2倍、2倍、2倍となる)」を上回るペースで成長を続けている。海外ユニコーン企業とも遜色ないスピードでの成長だ。「トラクションの再現性がすごい。計画通りか、計画以上に数字を伸ばしている」(ジェームズ・ライニー)
そして、同社は21年12月、CEO交代を発表。創業者である宮田昇始からCTO(最高技術責任者)だった芹澤雅人への社長交代劇は大きな話題を呼んだ。宮田は取締役ファウンダーとして会社に残り、子会社Nstockを立ち上げ「株式報酬」をテーマにした新規事業も行う。
ALLSTAR SAAS FUNDマネージングパートナーの前田ヒロは次のように話す。「強い経営メンバーを揃えることはクラウド企業にとって重要だ。理由は、オペレーションが分業化しやすいモデルだからだ。だからこそ、経営陣、部署間の連携も求められる。
いいSaaS企業とそうでない企業の大きな差は、『経営陣の力と連携力』。なかでも、SmartHRが特別だと思うのは、宮田さんが優秀な人たちを採用し、スピーディに権限移譲し、かつ、経営陣の成長スピードも圧倒的な点だ。それが社内に『権限委譲』の文化をつくり、マネジャーやメンバーの成長にもつながっている」。