「調整局面という見方もあるが、適正化したとも言える。加熱が終わり、クラウド企業の優勝劣敗が見えてきている」と話すのは、UB Ventures代表取締役・マネージングパートナーの岩澤脩だ。
日本の上場クラウド企業27社から構成されるインデックス「One Capital Cloud Index」を見ると、2018年1月との比較におけるOCCI指数が、最大値362.6%を記録した21年9月15日から22年2月8日時点で123.6%へと大きく下げている。
TOPIX(東証株価指数)や日経平均株価、東証マザーズ指数よりも上回っているものの、年初からの米長期金利の上昇を受けて、グロース(成長)株からバリュー(割安)株への資金シフトの影響が直撃。18年以降、右肩上がりを続け、コロナ禍で加速していた数値に調整が入った。
それに伴い、クラウド企業の主要指標である、12カ月先の「EV(企業価値)/Revenue(売上高)」、PSR(株価売上高倍率)の推移も調整局面を迎えた。One Capital代表取締役CEOの浅田慎二は「21年1月の(PSRは)全体平均値が18.1倍に対して、22年1月は9.4倍と半減した」と話す。
DNXVenturesマネージングパートナーの倉林陽は次のように語る。「ARR(年間経常収益)が100億円を超え、かつ、高い成長率の企業は20倍以上のEV/Revenueのまま。一方、成長率が低い企業は苦戦をしいられ、二極化が進んでいる。こうした上場企業のトレンドは、間違いなく未上場市場にも影響するだろう」
20年以降、非上場クラウド企業の順調な成長が、世界中の投資家の資金を集めてきた。21年には、海外投資家の流れが定着し、上場企業と未上場企業の両方に投資をする、国内外の「クロスオーバー投資家」も参入し、クラウド・スタートアップによる大型調達が相次いだ。国内SaaSスタートアップの調達金額総額は20年の767億円から、21年は過去最高の1465億円となり、全体の3割を占めるまで成長した。「スタートアップの主役」となったクラウド企業群の潮流は変わるのか。
「バリュエーション(株価評価)は調整局面とはいえ、重要な指標は『グロースレート(成長率)』であることには変わりない。レイトステージからアーリーステージまで高い成長率のスタートアップへの海外投資家の関心は高いままだ。また、国内もファンド資金がまだ潤沢にある。高成長率企業に、数多くの国内外投資家が殺到する二極化がここでも起きている」(倉林)
セールスフォース・ベンチャーズ日本代表の浅田賢は「寡占化が進み、顕著に優劣の差がつくという傾向は、スケールこそ違うが、米国と似たサイクルだ」と話す。