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2022.06.08

【追悼 出井伸之氏】『祖父代わりのような存在でした』五常・アンド・カンパニー 慎泰俊

創業初期の五常のメンバーと

ミーティングの合間に同僚からこのニュースを聞き、今日一日は呆然としていました。心がまったくまとまらないまま、PCの前に座り、このオビチュアリーを書いています。

小さい頃に祖父を亡くした私にとっては、祖父代わりのような存在でした。先日子どもが生まれ、家族で会いに行ってから数カ月が経っていたので、TODOリストには「出井さんと会うアポを入れる」という項目が入っていたところでした。あんなに元気だった出井さんがもうこの世界にいないことが、ただただ信じられません。

出井さんに初めてお会いしたのは2010年のことです。私が登壇したアジア・イノベーション・フォーラムのパネルで、最前列から私たちを睨むように座っていたのを強く覚えています。私が五常・アンド・カンパニーを創業したときに、最初の投資家の一人になってくれたのが出井さんでした。その後、2015年から2019年まで五常の取締役会議長として参画いただき、数多くのアドバイスとご縁を頂きました。

創業間もないベンチャーに、出井さんがレピュテーションリスクをとって会長として関与くださったことについての感謝は、言葉ではうまく表現できません。多くの「大人」は、損得勘定で会社に関わるかどうかを決めますが(それはある意味当然のことですが)、出井さんは目に見える数字ではなく、私たちを見て関わることを決めてくれました。


スリランカ訪問時に弊社顧客らと撮った写真

出井さんは物事を端的に話す人でした。かつ、常に長期目線で物事を見るので、出井さんの意見を聞いた直後は「?」となることが少なくありませんでしたが、少し時間が経ってからその意義深さを噛みしめることが多かったです。

好奇心旺盛な出井さんの友人はとにかく幅広く、出井さんのオフィスに遊びに行ったら20代前半の人と話をしていたことも一度や二度ではありませんでした。私が80代になったときに出井さんと同じくらいの好奇心を保ち続けられるだろうかというと、自信がありません。

「民間セクターの世界銀行をつくり、世界中に金融包摂を届ける」という五常のミッションを信じてくれた出井さんに、その結果を見せられなかったのは大きな心残りです。せめて、5月にオフィスを訪問して現時点での進捗を報告したかったです。

まだ消化しきれておらず、うまく文章が書けません。出井さんには恩を頂いただけで終わってしまいました。きっと民間セクターの世界銀行をつくり、受けた恩は社会に返していきますので、見守っていてください。本当に有難うございました。

文=五常・アンド・カンパニー 慎泰俊

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出井伸之氏のラストメッセージ

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