一方、カナダでは今週、ジャスティン・トルドー首相率いる政府が銃規制の強化法案を議会に提出した。国内で拳銃の新たな販売を禁止するほか、銃を扱うには不適当と判断した人からは許可証を取り上げる。ライフル銃など殺傷能力の高い銃の買い取りも進める計画だ。
米国の場合と異なり、カナダではこの法案は成立する公算が大きい。ただ、この違いが両国の世論の違いを反映しているのかといえば、そういうわけでもなさそうだ。
カナダの調査会社レジェが2021年に実施した世論調査によると、銃規制の強化に賛成と答えた人の割合はカナダで66%、米国で60%と、そこまで大きな開きはなかった。銃規制を緩和すべきだと答えた人の割合もカナダで10%、米国で12%だった。
ユベルディでの銃乱射事件の少し前に実施されたモーニング・コンサルトとポリティコの合同世論調査でも、銃規制の強化に賛成の米国人の割合は59%と似たような結果になっている。
カナダでは銃規制強化が実現しそうなのに、米国ではそれが難しい。その大きな理由のひとつは、やはり議会での勢力図の違いだろう。
カナダではトルドーの与党・カナダ自由党と協力相手の左派系・新民主党が下院で55%の議席を占めている。これに対して、米国でバイデンの民主党は上下両院ともどうにか51%の勢力を確保しているにすぎない。上院民主党はジョー・マンチン議員やキルステン・シネマ議員ら身内から反対に遭うことも多い。
加えて、両国での政治制度の違いもかかわっている。カナダの上院議員は任命制で、法案に反対することはめったにない。一方、米国の上院議員は下院と同様に選挙で選ばれる。カナダ上院の定員配分数は州によって異なるが、米国では人口にかかわらず各州の定数は2と決められており、一票の格差よりも州間の均衡が重視されている。
人口の少ない州は主に農村部にあたり、共和党支持者が多い。そのため、アトランティック誌の記事によると1980年以降、上院共和党が米国の人口の多数派を代表したことは2年しかないにもかかわらず、上院で多数派だった期間は22年に及んでいる。
また、米国の上院では採決を阻止するために議事妨害(フィリバスター)が行われることがあり、民主党は現在の勢力ではそれを突破できない。カナダの上院はこうした慣習とも無縁だ。
米国でも浮上している、殺傷能力の高い銃の使用や売買を禁止する案は、カナダではすでに2020年、ノバスコシア州で起きた銃乱射事件を受けて実行に移されている。