新しい事業をスタートさせる時、お決まりのMBA流メソッドに則って全体の計画を立て、こう上司に望む担当者は多いのではないだろうか。
アマゾンでバイスプレジデント、ディレクター等を長年担った『アマゾンの最強の働き方』の著者の一人、ビル・カーにもそういった経験があるという。
しかし、そんなことでは到底ジェフ・ベゾスを納得させることはできなかった。そしていつも突きつけられる一言があった。
ダイヤモンド・オンラインの記事から抜粋して紹介する。
「新しいストア」を立ち上げる
2004年、私(ビル)はデジタルメディア・グループの創設リーダーの1人に選ばれた。
デジタル形式の音楽、映画、テレビ番組を販売する新しいストアを早く立ち上げたくてうずうずした。
電子書籍のストアも改良する必要があった。2000年にオンライン展開を開始したが、当時はまだ小規模だった。電子書籍はパソコンでしか読めなかったし、紙の本より高価だった。
私はデジタルメディアの進め方は、おもちゃ、電子機器、DIY・工具といった新規事業を立ち上げたときと基本的には同じでよいと考えていた。「カテゴリーの拡張」と呼ばれる単純な発想だ。開発チームが商品カタログ作成用のデータを集め、仕入業者と話をつけ、価格を決め、ウェブページ用のコンテンツを作成すればスタートできる。
もちろん簡単ではないが、ストアや顧客体験をゼロから創出するわけではない。
だが、あとで思い知らされたが、デジタルメディアはまるで勝手が違った。この分野で素晴らしい顧客体験を提供するのは、すでにあるウェブサイトに新しいカテゴリーを追加するといった単純な話ではなく、はるかに複雑な作業だった。
顧客志向を徹底するための「厳しい問い」
最初の作業は通常のプロダクトと同じだった。
3~4人のチームで、お決まりのMBA流メソッドに則って全体の計画を立てた。
潜在的な市場に関するデータを集め、デジタル関連のシェアが増加傾向を維持すると仮定して、カテゴリーごとの収支を見積もった。
外部調達品のコストに基づいて粗利を計算し、必要な人員数をもとに営業利益を予測した。
コンテンツ企業との契約内容を検討し、価格設定の前提となる変数の見当をつけた。顧客にとってサービス内容はどのようなものになるかを記述した。
そして、これらの情報をパワーポイントのきれいなスライドにまとめ(まだアマゾンでパワーポイントが禁止される前だった)、わかりやすいようにエクセルの表を添えた。
その後、ジェフ(ベゾス)との会議を重ね、アイデアを説明した。彼は熱心に私たちの言葉に耳を傾けてくれた。徹底的に質問し、財務面についても入念に検討した。
しかし、彼は決して満足も納得もしなかった。私たちの提案では、具体的にどのようなサービスが顧客に提供できるのか、詳細がよくわからないというのだ。
そしていつも「モックアップ(見本、試作品)はどこだ?」と訊いてくる。
ジェフの言うモックアップとは、新サービスがアマゾンのウェブサイトでどのように見えるのか、視覚的に表現するサンプルのことだ。
最初の画面から、商品を購入するまでの顧客体験のすべてについて、モックアップを使って細かく示さなければならない。画面のデザイン、ボタン、説明文、クリックの順序など、あらゆる点を考慮することが求められた。