彼の答えはシンプルで、いまも記憶に残る有益なアドバイスとなった──正しいと証明できるまで、すべての文が間違っていると疑いながら読み進めること。
もちろん彼は、提案の中身に疑問を投げかけているのであって、書き手の動機を疑っているのではない。そんな読み方をするからなのか、文書を読み終わるのがいちばん遅いのはたいていジェフだった。
このような批判的な視点によって、的確に状況を把握できているか、根本的な事実を見逃していないか、またアマゾンの行動規範に則っているか、といった検証が可能になる。
たとえば、こんな説明文があるとしよう。
「商品の返品期限について、競合他社の多くは購入後30日以内としているが、当社では顧客の利益を最大限に考慮して60日以内とした」
次の会議がある多忙な幹部社員なら、この一文をさっと読み流し、納得して先に進んでしまうかもしれない。
しかし批判的な読み手なら、文中に存在する暗黙の了解に疑問を投げかけるだろう。すなわち、返品可能な日数を長く設定するのは、本当に顧客にとって良いことなのか、といった疑問だ。確かに他社と比べれば顧客にとって有利かもしれない。しかし顧客にとって本当に良いことなのか?
批判的な読み手なら、さらにこんな質問をするだろう。
「アマゾンが本当にお客様にこだわるというならば、返品が担当部門に到着し、破損がないことを確認するまで返金をしないのはなぜなのか? 返品を希望する顧客の99%は誠実に損傷のない商品を返送してくれるというのに」
このように、提案文書に何か不備がないかと疑ってみることで、アマゾンは顧客にとって煩わしさのない返品ルールを考案することができた。このルールによれば、顧客は返品希望の商品がアマゾンに到着する前に代金の返還を受けることができる(商品を返送しないごく少数の顧客には、返還した代金を改めて支払ってもらう)。
ちなみに、こういったことを実行するのに「ジェフの存在」は関係ない。あなたの組織でも、批判的思考を徹底すれば、多様なアイデアをうまく生み出せるようになるはずだ。
*本稿はダイヤモンド・オンラインの記事よりの抜粋である。
『アマゾンの最強の働き方』2022年、ダイヤモンド社刊、コリン・ブライアー/ビル・カー著、紣川謙 監修、須川綾子訳