著者である、「ジェフの影」と呼ばれるCEO付きの参謀を務めたコリン・ブライアーと、バイスプレジデント、ディレクター等を長年担ったビル・カーが、その誕生を目の当たりにしたアマゾン独特の超合理的な仕事法とは?
ダイヤモンド・オンラインの記事から抜粋して紹介する。
通常とは反対の流れで考える
2004年以降に誕生したアマゾンの主要なプロダクトや新規事業には、アマゾンらしい共通の特徴がある。それらの多くが、顧客体験を起点として開発に取り組む「ワーキング・バックワーズ(逆向きに取り組む)」と呼ばれるプロセスによって実現したということだ。
これはアイデアを吟味し、新しいプロダクトの創造に結びつけるための体系的なアプローチである。
まず、あるべき顧客体験を定義し、それを実現するためにいま何をすべきかと、さかのぼっていくかたちで考える。どんなプロダクトをつくればよいのか、関係するチームの思考が明確になるまで、この作業を繰り返すのだ。
ここで登場するのが、後述する「PR/FAQ(プレスリリース/よくある質問)」である。
私たち2人(ビルとコリン)はその誕生に立ち会うことができた。このプロセスを導入したとき、コリンは「ジェフの影」の立場にあった。導入から12ヵ月、ジェフ(ベゾス)が出席したワーキング・バックワーズのプロセスを検討する会議のすべてに参加した。
ビルは、この概念を新商品開発の初期段階から適用し、改良を重ねた。それは、のちにあらゆるデジタルメディア事業の開発へとつながる、貴重な実験でもあった。(中略)
何もない時点で「プレスリリース」を書く
ジェフは考えを進めた。(企画スタート時の)商品コンセプトの説明文が「プレスリリース」だったとしたらどうだろう。
普通ならプレスリリースは、商品開発工程の最後に作成するものだ。エンジニアやプロダクトマネジャーが担当業務を終えると、今度はマーケティングや営業部門にバトンを渡す。多くの場合、ここで初めて顧客の視点に立ってプロダクトが吟味される。そしてマーケティングや営業部門が、画期的な機能や優位な特長をプレスリリースで表現する。注目を集め、口コミを広めるため、そして何より顧客に喜んで買ってもらうためだ。
この一般的なプロセスでは、企業は現在から将来に向かって仕事をする。リーダーはまず会社にとって利益となるプロダクトや事業を構想し、そのあとで従来は満たされていなかった顧客ニーズを満たそうと努力する。
このようなやり方では、望ましくない結果に終わることがあるとジェフは考えていた。
それを説明するため、彼は架空の例として、ソニーが新しいテレビを開発するケースを考えてみようと言った。
営業とマーケティングの各部門は、顧客の嗜好と市場動向(必ずしも顧客体験ではない)を精査した結果、44インチのテレビの適正な販売価格は1999ドルだと判断した。一方、技術部門は長らく高解像度の画質を追求しており、価格のことは特に考えていなかった。そうして彼らは製造するだけで2000ドルかかるテレビを開発した。つまり小売価格1999ドルでの発売はあり得ないという結果に終わる。
もし、すべての関係部門が、まず最初にプレスリリースを作成してから開発に着手していたら、機能、費用、顧客体験、価格について合意できていたはずだ。そこからさかのぼるかたちで考えて、どのようなプロダクトをつくるべきか検討できたはずだし、開発や製造の過程における課題をあぶり出せたに違いない。