常にいくつもの「リップル」が生まれている
そうしたリップルは常に、より良いコーヒーカルチャーを追い求める、時代を先取りする人たちによって作られる。田中は自身のコーヒーダストバーが、そうしたリップルの一つを生み出すことになればと願っている。
ただ、ベアポンドを開業したことで、すでに彼はリップルを起こしている。「日本でのサードウェーブが起きる前」だった当時、田中のいれるエスプレッソを好む人は、多くはなかった。
だが、彼のエスプレッソは同時にカルト的な人気も集め、やがてベアボンドは日本における新たなコーヒーカルチャーの先駆けとして知られるようになった。田中の活動は、2014年に公開されたドキュメンタリー映画「A Film About Coffee」でも紹介されている。
「名刺代わり」のコーヒーバー
ベアボンドだけで販売している1枚800円の田中のコーヒーダストバーは、すべてが手作りだ。カフェインの含有量は、レギュラーカップのコーヒー1杯の半分にあたる50mg。ただ、使用するコーヒー豆を変えれば、カフェインの量もフレーバーも、カスタマイズすることができる。
コーヒーダストバーを通じて、ビジネスのチャンスを広げることもできるだろう。だが、田中はその製法で特許を取ることは考えていないという。
「僕が目指すのは、コーヒー業界にリップルを起こし続けること」
「死ぬまでに使い切れる以上のお金はいらない。リッチじゃないけれど、これまでずっと、銀行口座にいくら貯金があるかなんて気にしたことがない……自分のしていることを楽しんでいれば、お金は後からついてくる」
65歳の田中は、自身の新たな「リップル」をさらに広めるため、妻とペットの犬とともに、キャラバンとして日本中を回ることを計画しているという。
「各地のカフェを訪れて、それぞれのコーヒーを味わい、帰り際にその店のオーナーに、コーヒーダストバーを渡してこようと思う」
「いまこの瞬間にも草の根レベルから、コーヒーの新たなウェーブが作られ始めていることを、感じ取ってもらえればいいなと思う。そして彼らも僕と同じように、新たに小さなリップルを作ることで、そのムーブメントに加わってくれればと願っている」