ビジネス

2022.06.06

近江牛の老舗・大吉商店、成功のカギは「1620円」のコンビーフ?

大吉商店の売上を30年で10倍に伸ばした永谷武久社長


そこで永谷社長は、自ら牧場を経営することで希少部位の安定供給体制を構築した。

希少部位は、「希少」なだけに価格競争に巻き込まれることがなく、高い価格で販売することができる。例えば「みすじ」は100gで約2500円。それでも販売量が限られているため、飛ぶように売れていくのだ。

続けて永谷社長がプレミア化したのが、販路だ。自分たちの近江牛が「目玉商品」として安売りされるような店には、卸すのを止めた。自分たちの手で売ることができるECサイトのほか、高島屋、伊勢丹といったブランド力のある百貨店に販路を絞った。

また、京都にオープンした懐石料理店「和牛会席 ぎおん だいきち」では、近江牛を使用したコース(1万1000円〜)を提供している。


京都・祇園の懐石料理店「和牛会席 ぎおん だいきち」

「地域ナンバーワンの店」として有名に


3つ目のプレミア化は、生産者である永谷社長自身だ。永谷社長が“有名”になったのだ。

大吉商店のECサイトや商品カタログには、消費者に安心してもらうためにも必ず永谷社長の顔写真を入れているが、それだけではない。こうした生産者のプレミア化を最も加速させたのが、数々のテレビ番組への出演だ。2010年ごろから関西のテレビ局がこぞって大吉商店を取り上げ、全国放送の番組にも出演するまでになっている。



なぜ大吉商店にテレビ取材依頼が舞い込むようになったのか。同社にはPR担当者はおらず、永谷社長自身がPRのために特別なことをしているわけでもなかった。人員も労力も充てていないのだから、まさに企業としては理想的な状態だろう。

その成功要因を一言で表現するなら、「商品戦略がPR施策を不要にした」ということだ。

これら3つの「プレミア化」によって、大吉商店は地元で突出した存在となった。そのため、この地域に焦点をあてた旅番組や情報番組では、自ずと取材候補に名前が挙がるようになった。筆者も過去にテレビ局でディレクターを務めていたが、番組制作者としてはやはり「地域ナンバーワンの店」は外せない。
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文=下矢一良

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