ビジネス

2022.06.06 11:00

近江牛の老舗・大吉商店、成功のカギは「1620円」のコンビーフ?

大吉商店の売上を30年で10倍に伸ばした永谷武久社長

父親の後を継いでから30年。この間着実に成長し続け、年商を2億円から20億円と10倍にまで伸ばした商店が、滋賀県にある。高島市で明治29年に創業、近江牛の生産・販売などを手がける大吉商店だ。

日本政府は、農業や畜産、漁業の生き残りを賭けて、2011年に6次産業化法を施行。「6次産業化」を強力に推進している。6次産業化とは、1次産業である農林漁業者が、生産だけではなく食品加工(2次産業)や販売(3次産業)にも取り組むようになること。大吉商店は、この6次産業化の成功例と言えるだろう。

「元々大吉商店は、近江牛を扱う精肉店でした。事業を拡げるにあたり『近江牛に関することであれば、誰よりも詳しい自分たちが失敗することはない』という想いで6次産業化を進めていきました」

父親の急逝がきっかけで、1992年、23歳という若さで跡を継いだ永谷武久社長は、こう振り返る。



就任後は、精肉の販売だけでなく、近江牛の生産も自社で行うため「大吉牧場」をオープン。そこで生産した近江牛を用いたレトルトカレーやコンビーフなどの食品加工業にも乗り出した。さらに2019年には京都に懐石料理店をオープン。その積み重ねにより、30年間で売上が10倍にまで伸びている。

とはいえ、ただ「業態を大きくすれば成功する」といった甘い世界ではない。永谷社長の成功のカギは徹底した「プレミア化」だ。具体的には、「商品」「販路」「生産者」の3つをプレミア化することである。

希少部位の安定供給のために牧場を開設


まずは商品のプレミア化について見ていこう。

近江牛を販売する業者は数多く存在する。「近江牛を取り扱っている精肉店」というだけでは埋没してしまう。そこで永谷社長が目をつけたのが、近江牛の希少部位だった。牛肉は、「ヒウチ」「ミスジ」「トウガラシ」「カイノミ」「ランイチ」「芯たま」といった希少部位への需要も高い。

「こうした希少部位は元々、生産者が自分たちで味わうだけで一般にはなかなか流通していませんでした。というのも、体重500kgの牛一頭から2kg以下しか取れないんです。既存の流通網では、安定的に供給することはできません」
次ページ > 高価格帯で飛ぶように売れるのは「希少部位」

文=下矢一良

ForbesBrandVoice

人気記事