同社は、線虫の嗅覚を利用し、尿1滴でがんを発見する世界初のがん検査「N-NOSE」を開発する、九州大学発のスタートアップ。尿を検査センターに送るだけで、全15種類のがんリスク判定ができ、2020年のサービス開始(実用化)以来受検者は急増しており、最近の1年間で15万人を突破した。
さらに昨年11月には「早期すい臓がん」を特定できる検査の開発に成功したと発表し、今秋には実用化する予定だという。
快進撃を見せる同社だが、創業初期、ベンチャーキャピタル(VC)には頼らなかったという。その理由は何か。代表の広津崇亮(ひろつたかあき)に聞いた。
失敗からスタートしたビジネス
──ヒロツバイオ立ち上げに一度起業して失敗。ご著書では「研究者が社長になるべきではない」とのアドバイスに従ったのが敗因だと。
九州大学の研究者でもあった当時、起業コーディネーターなる人々が押し寄せ、全員から「社長をやってはいけない」と言われました。たまたま学内に、アントレプレナーの勉強をしている方がいたので社長になってもらうことにしたのです。
しかし経験が浅かったせいか、投資家や企業に対して、起業のノウハウ本に書いてあるようなビジネスの話ばかりしてしまい、技術の素晴らしさや展望を語ることができませんでした。
ノウハウ本には、まず市場を調査し、競合はどこで、どのポジションを狙うか、自社が持つ技術の強みと弱みはこうでといったマーケットの分析方法が書かれています。最初の起業では、まさにそういう説明の仕方をしたせいで失敗しました。
ただし、技術が素晴らしければ上手くいくわけではない。大事なのはビジネスモデルです。その技術が社会にとってどういう位置づけになるのかをよく考えておかないといけない。
日本のがん検査市場は、検査に行く人自体が少ないので市場が小さい。その中で「ライバルに勝るメリットは安さです、しかし、がん種の(リスク判定はできるが)特定ができない弱みがあります」と言うと、負の面がやたらと大きく見えてしまいます。それなら他の検査で良いんじゃないかという話になり、上手く行かなかった。
──ヒロツバイオは、そうした反省に立ってスタートしたのですね。
はい、自分自身がある程度経営に関与するしかないと覚悟を決めました。事業計画も自分で作るべきだと考え、この検査の位置づけについても「一次スクリーニング」という見せ方を思い付きました。「がん検査の入口」という概念を作り出したわけです。
すると、がん種は特定できないが、全身網羅的に、しかも安く精度の高い検査ができるという見え方になる。市場は大きく、しかも毎年受けるべき検査なので、多くの人たちが利用してくれるだろうということになったのです。