設備維持に必要な労働者数の違い
このエンジニアによると、海上石油・ガスプラットフォームの建設には、洋上風力発電所と同様に約30億ドル(約3900億円)の費用がかる。しかし、既に建設された石油・ガスのプラットフォームの維持には約100人の労働者が必要となり、労働者が全く必要ない風力発電所とは大きく異なる。
このことからは、労働者の再訓練やスキルアップに注目すべきことが明確だ。スコットランドと同様に欧州の小国であるデンマークは、既に石油・ガスの追加探査を中止している。同国は、2050年までに北海の石油・ガス生産を全てやめる予定だ。
デンマークでは、石油・ガス関連の労働者を、洋上風力発電や二酸化炭素の回収・貯蔵などのグリーンエネルギー分野に配置することを見込んでいる。
移行に伴う葛藤は他にも
再生可能エネルギーへの移行を示すS字型曲線は近年、3つの大きな逆境に直面した。1つ目は、新型コロナウイルス感染症の流行により、必要な化石燃料の量が減ったことだ。油井・ガス井戸やさびついた精製所は閉鎖され、石油の1バレルの価格はゼロにまで下がった。
これにより化石燃料から出る温室効果ガスの排出量が減り、再生可能エネルギーへの移行が促されるのではと一部では主張された。
2つ目に、世界は新型コロナウイルス感染症の流行から回復し、産業が復活した。労働者は再び車で通勤するようになり、旅行者はこれまで聞いたことさえなかったような国立公園を訪れるようになった。これによって石油・ガス不足が生じ、石油は1バレル100ドル(約1万3000円)に近づいた。
3つ目に、ロシアのウクライナ侵攻だ。欧州連合(EU)、英国、米国を含む各国は、ロシアの石油・ガスの輸入停止を決めた。戦争による不確実性から将来への懸念が増幅し、石油の価格は1バレル当たり100ドルを超えた。
こうして現在、もう一つの主張が出現している。それは、ガソリン価格を下げるために石油やガスの生産量を増やし、今は温室効果ガスなど気にすべきではないというものだ。
この議論は、エネルギーの安全保障と気候危機の間の葛藤を強調している。