チョコレートブランド「メゾンカカオ」クリエイティブの原点を聞く

石原紳伍 メゾンカカオ創業者兼カカオディレクター

「100年続くブランド」を目標にするチョコレートブランド「メゾンカカオ」。創業者兼カカオディレクターの石原紳伍に、ラグビーに学んだ戦い方とクリエイティブの原点となった子ども時代の思い出を聞いた。


コロンビアで出合ったカカオに魅せられ、2015年、鎌倉の地にチョコレートブランドを創業しました。ブランドバリューのひとつは「Farm to Customer」。コロンビア現地での自社管理農園から、湘南自社工場での開発・生産、販売までの工程を、厳しい基準のもとに行っています。

自社管理農園は、カカオのクオリティ向上と現地農家や地域との良好なパートナーシップには必須であり、生産者とともにものづくりを行うことで永く彼らの生活環境も整えられたらと考えてのことでした。常識にとらわれず、日本ならではの四季折々のチョコレートの楽しみ方を世界に発信し続け、100年続くブランドへ成長させるのがいまの目標です。

起業のきっかけとなったコロンビアは、知人の影響で興味を覚え、プライベートで訪れた場所でした。もともと旅は好きで、なかでもいちばん大事なのが「食」です。やはり食には、地域の文化と歴史がいちばん表れると思う。そんなわけで行きたかったレストランの予約が取れたあとに旅程を決めることもしばしばです。その次に興味があるのは地域特有のクリエイティビティで、美術館や遺跡などもよく出向きます。

食やクリエイティブへのこだわりは、やはり幼いころの環境でしょうか。僕が生まれ育った町は鉄工所が多く、学校に行くまでの道のりはいつも油の焦げた匂いがしていた。両親はそんな町で串焼き店を夕方5時から夜中の3時まで営業していました。僕と弟は上階の寝室ではなく、なぜか1階の店舗の休憩室で寝ていて、お客様の笑い声や「うまい」という声などを子守唄に育ちました。

日曜日は必ず外食。いろんなジャンルの店に連れていかれ、それこそカウンターの寿司もフレンチも食べましたが、僕と弟がいちばん好きだったのは「フレンドリー」というファミレス(笑)。でも、両親の手料理や店の活気、日曜の家族総出の外食が豊かな記憶となって僕の起業を後押ししたのは間違いないと思います。

クリエイティビティとは何か。僕は気づきと思想だと思っています。小さな気づきの積み重ねが、人を感動させる大きな集合体になっていくのではないでしょうか。一方で思想は、信念を明らかにし、それをどこまで続けられるかが鍵となります。

僕が目標に掲げる「100年」を達成するには、ワンチーム(これはまさしく僕の体と精神を育てたラグビーに由来する言葉ですが)─生産者も製造者もプレゼンター(販売)も、ひとつのチームとして全身全霊で挑み続けること。その際、思想はその年ごとに見極めて、少しずつ変えねばなりません。これは自分が大学4年生のときにラグビー部の初代学生コーチとしてチームをバックアップしながら、痛感し、考え抜いたことでもあります。

チョコレート業界でいうと、バレンタインデーというのはいちばんの踊り場に立たされる瞬間。ラグビーの全国大会出場に匹敵するほどの緊張感があります。ただ、スポーツとひとつだけ違うのは、1位獲得だけが成果ではないこと。どれだけ世の中に価値を伝えられたか、どれだけ自分が納得できたかが勝負。そんな1年に1回の大試合を社会人になってからも経験できるのは、青春であり幸福です。
次ページ > 石原紳伍のある1日

構成=堀 香織 写真=yOU(河崎夕子)

この記事は 「Forbes JAPAN No.093 2022年月5号(2022/3/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

連載

CEO’S LIFE─発想力の源を探る

ForbesBrandVoice

人気記事