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2022.06.10 16:00

<寄稿>100年間、医療機関からの揺るがぬ信頼。秘訣は「人材育成と企業理念の共有」にあり

岡山市に本社を置くオルバヘルスケアホールディングス株式会社(旧カワニシホールディングス)は、中四国を中心に近畿、東北、関東で事業展開する医療機器販売商社である。

医療機関との長年の信頼関係の上に成り立つビジネスで、地域の有力企業との合併やアライアンスにより市場を拡大しながら、成長を遂げてきた。異なる文化を持つ企業をどのようにまとめていくのか、グロービス経営大学院の田久保善彦氏が聞いた。(本記事はボルテックス100年企業戦略オンラインに掲載された記事の転載となります)

「無理をしない経営」で100年企業を築く


田久保 オルバヘルスケアホールディングスは2021年に創業100周年を迎えられました。
この100年の間には、第二次世界大戦やバブル崩壊など、経営の根幹を揺るがす出来事が何度もあったはずです。繰り返し訪れるピンチを、御社が乗り越えることができたのはなぜだと思いますか。

前島 当社創業の地である岡山も1945年6月に大空襲があり、自宅も店舗も焼失しました。それでも、創業者の寺岡清照が灰燼の中から立ち上がることができたのは、それまでに築き上げてきた信用があったからにほかなりません。
1921年に創業者が始めたのは、医療器材の販売業でした。これは地域の医療機関に医療で使用するさまざまな機材や器具を納めるという事業で、医療機関との信頼関係がなければ成り立たない仕事です。創業者は自らの商売のあるべき姿を「商道六か条」にまとめていました。こうした価値観が当社のDNAとして連綿と受け継がれてきたからこそ、今日の当社があるのだと思います。



田久保 多くの長寿企業には、そのように代々守り続けている家訓のようなものがありますね。

前島 大切な創業精神として「無理をしてはいけない」があります。「無理をすると、必ずどこかにつけが回ってくる。その結果、人に対する誠意が欠けることになる。人間も家業も、誠意をなくしてしまってはだめになる」というのです。
創業者が器械を納品した病院が繁盛して、院長先生が「さらに高価な器械を入れたい」と言ったところ、創業者は「先生、それはちょっと贅沢だ」と言ってたしなめたそうです。売上を上げることよりも、本当の意味でお客様にとってよいことをする。当社には今もそんな社風がありますが、この創業精神が原点になっていると思います。

4コママンガと社員憲章カードで企業文化を浸透させる


田久保 社風や文化の継承が難しいのは、優秀な人に受け継いでもらえばよいのではなくて、みんなに浸透させないといけないことです。創業の精神を残していくために、どんなことをされているのですか。

前島 経営サイドがどんなメッセージを出しているのかが重要です。たとえば無理な目標設定をしない、などです。私たちが取り扱っている機器・材料のニーズは、医療の現場の状況によって左右されます。自分たちの努力によっていくらでも売上を伸ばせるという性質のものではありません。そうした現況を踏まえた目標設定というスタンスが、「無理をしてはいけない」という価値観の浸透につながっているのではないかと思います。
社内表彰でも、単に数字がよかった人を表彰するだけではなく、たとえ売上につながらなくても、誠実な仕事をした人、高い倫理観にもとづく行動をとった人も表彰しています。

田久保 M&Aなどで拡大してこられましたが、異なる文化を持つ企業が同じグループになるためには、どんなことが求められるのでしょうか。

前島 顧客から信頼されてその会社の事業が成り立っているのであれば、基本的には経営は各社の自主性を重んじるというスタンスでこれまでやってきました。ただ、業績的に及第点を取れたとしても、本当の意味でグループとしてのシナジー効果が出ているとはいえません。
そこで、もっとヨコの連携を強化していく必要性を感じ、創業100周年を機に「理念共有プロジェクト」を推進しました。20年前に作成された「社員憲章」も、日々の業務の中で判断基準として活かせるようなものに改定しました。

田久保 M&Aをされた側からすると、これまでの自分たちの拠り所が失われたように感じるものです。新しい拠り所として一つの旗を鮮明にするのは、大事なことですね。

前島 企業文化とは、社員一人ひとりが問題解決に臨むときの前提になるもので、「誰も見ていないときにどう行動するか」が問われています。その指針となる「社員憲章」は、カードにして全社員に配布しました。また、誰にでもわかりやすく、理念に親しんでもらうために「4コママンガ」を制作して社内報に掲載するとともに、そのエッセンスをポスターにして職場に掲げています。こうして、企業理念を社員一人ひとりのものにする活動を継続中です。


4コママンガとポスターによる理念共有の事例

創業精神を受け継ぎつつボトムアップで未来を拓く


田久保 扱われているのが医療機器ですから、専門知識も必要ですね。人材育成については、どのような取り組みをされていますか。

前島 理系の人材が多いと思われがちですが、入社する社員の大半は文系です。もっとも理系でも医学教育はほとんど受けていませんから、知識教育は不可欠です。
創業者が作成した「商道六か条」の一つにも「店員の教育に力を注ぐ」とある通り、当社は歴史的に人材育成を重視してきました。バブル崩壊で深刻な経営危機に陥ったときも、こういう時こそ徹底的な人材育成が必要と考え、「カワニシ・ビジネススクール」を開設し、商品知識の吸収やビジネスの基本スキルの獲得に努めました。その結果、専門性とマネジメント力が磨かれ、当社は経営危機を脱し、ふたたび拡大・発展の道を歩み始めたのです。
その教育制度は、現在「オルバ・アカデミー」として継承されています。新入社員対象のベーシックコースは、約半年間に65コマを受講してもらいます。その後も、階層別、分野別にさまざまなコース・講座が設けられ、総合的なスキルアップが図れるようになっています。

田久保 今後に向けて、どんな人材を育てようとされているのですか。

前島 これまでの医療機器販売は、時代の流れや制度のあり方に左右される面が大きく、その流れに乗ることが大切でした。しかし、これからは違います。今後はそれぞれの現場で起きていることに、どれだけ的確に、迅速に対応できるかが勝負の分かれ目になります。最前線に立つ社員一人ひとりのアイデアや感性が、かつてないほど重要になっているのです。
いま、ボトムアップの重要性をいつも強調するようにしています。理念共有プロジェクトなどを通して、グループ内の交流が活発化しつつあるので、これからさらにグループとしての総合力を高め、発揮できるように努めていくつもりです。

田久保 社員一人ひとりに目を配り、長期的な視点で育成していくことは、サステイナブルな企業の条件の一つだと思います。御社がこの課題に真正面から取り組まれていることがよくわかるお話でした。



前島洋平(まえしま ようへい)◎オルバヘルスケアホールディングス株式会社代表取締役社長。1967年岡山生まれ。1991年医師免許取得。1991年岡山大学医学部附属病院内科研修。1997年医学博士号取得(腎臓内科学:岡山大学)。1998年米国ハーバード大学医学部附属病院に研究留学。2001年に帰国後、岡山大学医学部附属病院助手、講師を経て、2011年岡山大学大学院医歯薬学総合研究科教授。2014年、事業承継の目的で株式会社カワニシホールディングス取締役に就任。2015年9月、同社代表取締役社長(現オルバヘルスケアホールディングス)に就任、2018年3月グロービス経営大学院にてMBA(経営学修士)取得、現在に至る。


〈聞き手〉
田久保善彦(たくぼ よしひこ)◎グロービス経営大学院 経営研究科 研究科長。学校法人グロービス経営大学院 常務理事。慶應義塾大学理工学部卒業、学士(工学)、修士(工学)、博士(学術)。スイスIMD PEDコース修了。株式会社三菱総合研究所を経て現職。経済同友会幹事、経済同友会・規制制度改革委員会副委員長(2019年度)、ベンチャー企業社外取締役、顧問等も務める。著書に『ビジネス数字力を鍛える』『社内を動かす力』(共に、ダイヤモンド社)など多数。





本記事は「100年企業研究オンライン」に掲載された記事の転載となります。元記事はこちら


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