「シグニファイ」に込めた照明価値への追求と挑戦
2019年にフィリップス ライティング ジャパンから社名変更し、光がもたらす先進的な付加価値領域への挑戦を続けるシグニファイジャパン。2021年6月には、世界中で実績のある照明制御ネットワークシステムを日本で初展開させた。これは空間デザインに関連する照明、空調、センサーなどの複数のメーカー製品を1つの制御システムに統合させるシステムだ。
これにより、照明デザインの自由度を向上させるとともに、操作インターフェースの簡素化や自動制御化による消費エネルギー、スペース利用の合理化を図り、持続可能なスマートオフィスの構築を実現する。
またコロナ禍により各国での事業が伸び悩むなか、紫外線照射により細菌やウイルスを短時間で効果的に不活性化する除菌機器を発売し、2021年に日本での売上成長率50%増を達成。シグニファイが展開する74か国中、第2位の実績を収めた。その業績に貢献したのが、2022年4月1日に職務執行者 社長に就任した弱冠41歳の大塚圭太郎だ。
業界における様々なパートナーと戦略的協業を実現させてきた大塚氏が次なる目標とするのは、照明業界のプラットフォーマーになること。シグニファイに社名を変えた理由もそこにあるという。
「認知度の高い『フィリップス』から社名変更をしたのは、照明機器をただの灯りではなく、IoTのデバイスとして新しい付加価値を作っていくため。リーディングカンパニーとして業界を変えていくという意味を込めています」
街全体を照らす景観照明から自宅のライティングまで、全ての照明の可能性を広げる
シグニファイではコネクティッド照明システム『Interact(インタラクト)』の導入を事業展開の大きな柱としている。前述した空間環境を最適化させるオフィス照明『Interact Office』もその一つである。
ダイナミックな建築用照明を管理・プログラムする『Interact Landmark』では、2019年から横浜・みなとみらいのクリスマスイルミネーションに参画。装飾で彩られたエリアは年を追うごとに拡大し、音響とのコラボも好評だ。
「Interact Landmarkは拡張性のあるシステムなので、最終的には全域を照明でコントロールできればと思っています。横浜港は夜景が美しいエリアですから、みなとみらいからベイブリッジまで同じ照明システムで連動しストーリー性の高い照明演出ができれば、地域貢献につながるのではないかと考えています」
スタジアムを照らす全ての照明を管理する『Interact Sports』では、2019年のラグビーの国際試合において世界基準の仕様を各施設にという主催者の要望を受け、豊田スタジアムやノエビアスタジアムに世界中の国際的なスポーツ施設で多く採用されているプロスポーツ専用の照明システムを導入。
場内・場外の空間でプログラム制御による照明演出を可能にし、音と映像を連動した空間創出により来場者の高揚感を高めている。また国際大会で培った照明空間設計技術で、競技のしやすい照明環境を構築。選手や観客はもちろんのこと、報道陣からも高く評価された。
さらに今、大阪府と進めているのが街路灯・道路灯事業『Interact City』だ。街路灯や道路灯をIoT化することにより状態監視、つまり何万時間照明がついているか、替え時はいつかなどを目視しなくても掌握できる。しかしそれ以上に重要なことがあると大塚は言う。
「日本は災害大国。街路灯には非常時のブラックアウトを防ぐ役割がありますが、現在の一般的な街路灯は配線や電源が地中に埋まっています。IoT化と平行して、これからは地震や津波などの災害時に対応可能なソーラーパネル付き・オールインワンの街路灯の設置を実現したいと考えています」
様々な照明をIoT化するにあたり、もう一つ注目されるのは柔軟性、フレキシビリティだ。2022年1月にはシャープが提供するスマートライフアプリ「COCORO HOME」と連携を開始。家庭向けIoT照明ブランドのPhilips Hueは、スマート家電と連動した「COCORO HOME」と連携することで、複数のメーカーを統合した体験を提供し、生活をより豊かに、便利にしている。
外出先からシャープのスマートライフアプリ「COCORO HOME」を通じて「Philips Hue」の点灯や消灯などの操作が可能
「ユーザーは快適さや利便性を重要視します。我々も一番重要視するのは環境づくりです。たとえ他社メーカーのハードウェアであっても、シグニファイのプラットフォームの中で連動させ、最大効率化を実現する。それこそが企業ポリシーであり、ビジョンでもあります」
殺菌灯や食物育成用照明にも新たな可能性を見出していく
シグニファイは、会社の存在意義として5つの目的を掲げているという。「気候変動」「循環型経済」「食の供給」「安全とセキュリティ」「健康増進」、これらをドリルダウンし、実務的な内容に落とし込み、社会に対して貢献していくことがビジネスのストラテジーだと語る。
「食の供給」では、工場でのレタスやトマトなどの植物育成用の照明、サーモンの陸上養殖のための照明などがすでに大規模工場などで採用されているほか、今後は鶏や卵といった家畜用照明に向けて開発が進んでいる。
また、「健康増進」となる紫外線を使った除菌機器はコロナ禍の中、シグニファイが展開する世界74カ国中、最短のリードタイムで販売。日本独自のセールス方法として、製品のメーカー保証に加え、使用時の安全性を担保する「UV-C賠償責任保険」を付帯することで紫外線に対する消費者の不安感を払拭、爆発的なヒットとなった。
3年後にはIoT関連の売上を全収益の80%へ。付加価値をこれからもうたう
照明をきっかけにIoTのインダストリーへと向かっていくシグニファイジャパン。今後の展開を尋ねると、現在25%程度のIoT関連の売上を、3年後には80%台に持っていきたいと話す。
「日本は海外に比べてIoT化の進捗度が遅い。プラットフォームビジネスはアメリカではとても早いし、サスティナビリティの考え方はヨーロッパの方が圧倒的に浸透している。それらを海外から学びつつ、日本市場に合うやり方で進めていければ」
照明のIoT化により、オフィスの最大効率化や観光施設への集客、感動といった付加価値をうたっていきたいと語る。
「我々のゴールは照明機器のIoT化、プラットフォーム側を担っていきたいということです。照明の企業なのでライトポイントを増やすことも重要ですが、その先を見ると照明だけのプレイヤーではいられない。照明業界にとどまらず、照明業界の枠を超えていく。その先には、快適かつ安全な環境づくり、IoT化で生活をより豊かにする未来を目指していきたいと考えています」
大塚 圭太郎(おおつか・けいたろう)◎職務執行者 社長。2004年 、株式会社フィリップス エレクトロニクス ジャパン(現フィリップス・ジャパン)入社。自動車電球事業部にて、キーアカウントマネージャーを担当、ゼネラルライティング事業部 事業部長を経て、2022年4月より現職。