売れているのに利益が減るのはなぜか?
売上高が増えると、利益も増える。一見、当たり前のことのように感じるだろう。
売上高とは文字通り、「モノ」や「サービス」を売ることで得る収益のことで、それらを売るために使った費用を引いたものが利益である。通常は、「モノ」や「サービス」を売れば売るだけ、利益は増えるものだ。
しかし、かつてのトヨタ自動車に一時的に起きていたのは、この一見当たり前の話とは正反対の現象だった。一体何が起きていたのだろうか?
アメリカ市場で何が起きていたのか?
その現象が起きたのは、2000年代前半のアメリカ市場でのことだった。2008年9月のリーマンショックがきっかけで世界経済に激震が走る前のことだ。アメリカでは好景気が長く続いていて個人消費の意欲も旺盛だった。つまり自動車の買い替えや住宅購入が活発に行われていたのである。
トヨタの海外生産拠点も、販売が伸び続けていたアメリカを中心に急激に拡大した。2008年にリーマンショックが起きるまでの10年間でトヨタの海外生産台数は3倍以上に増加した。同じ10年間で国内生産を含めたトヨタ全体の生産は倍近くにもなった。まるで、トヨタがもう一つトヨタをつくったかのような拡大の規模だったことになる。2007年3月期の決算では、トヨタは日本企業で初めて連結営業利益2兆円を超え、メディアは「過去最高」を記録したと高い評価を与えた。
しかし、実はこの急激すぎる拡大の裏で起こっていたことは、トヨタらしさの源泉でありトヨタのものづくりの強みであるトヨタ生産方式(TPS−Toyota Production System)の喪失であったことを、阿部修平が率いる投資顧問会社スパークス・グループのアナリスト・チームは6月1日発売の『トヨタ「家元組織」革命』の中で指摘している。
また同書は、急拡大の副作用は数字にも表れていることを明らかにしている。当時トヨタは、売上と利益の拡大を優先させた「資本の論理」に基づき、売れるアメリカ市場への進出を加速させていた。アメリカで好景気が続くなか、2006年3月期からリーマンショック直前の2008年3月期までの期間、トヨタの北米における売上高は7.7兆円から9.4兆円に増加している。にもかかわらず、本業の利益を示す営業利益は5000億円から3000億円に減少していたのである。まさに、売上が伸びているのに利益が減るという現象が起きていたのである。
この時代の戦略はまさに「アメリカ一本足打法」と言えるものだった。かつて一本足打法でホームラン王に輝いた巨人軍の王貞治選手のように、アメリカの売り上げが不動の4番バッターだった。しかし、当時のトヨタは北米市場への偏りからバランスが崩れて副作用を生んだのである。
その急拡大を後押ししたのが、当時のグローバルマスタープランという基本計画だった。この計画は、5年先までの販売・生産台数を記し、その大幅な台数増の目標に向けて工場の数を増やし自動車を生産していくという、拡大に偏重した計画だったのだ。
『トヨタ「家元組織」革命』
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