同報告書の発表前にも、ロシアによるウクライナでの残虐行為の証拠は募っていた。ジェノサイドや残虐行為の罪に関する35人の国際専門家が支援した同報告書では、ウクライナにおけるジェノサイドの深刻なリスクの存在と、ジェノサイドを行う直接的かつ公の扇動活動という2つの重要な発見が提示されている。
同報告書では、大量殺害や拷問、レイプや性暴力、子どものロシアへの国外追放など、この2つの発見の両方に関わる数多くのオープンソースのデータが引用されている。
同報告書はジェノサイドの深刻なリスクに関し、国連の残虐行為犯罪の分析の枠組みにのっとってジェノサイドに特有のリスク要因を分析した。ここでは、ロシアによるウクライナ人集団の存在の拒否や、罰を受けることなく残虐行為が行われた履歴、リソースや政治参加をめぐる過去の紛争の証拠に焦点が当てられた。
また、ジェノサイドの意思を示す兆候としては「扇動の文書化、焦点を絞った物理的破壊、広範あるいは組織的な暴力、生殖権に深刻な影響を与えるか子どもの強制的な譲渡を考える方策、非人間的な暴力、禁止された武器の使用、保護の対象となる集団の管理に対する強い承認の表現、家や農場、文化・宗教的象徴や施設に対する攻撃」などがある。
深刻なジェノサイドのリスクが実証された現在、各国には国連の「集団殺害罪の防止及び処罰に関する条約」(ジェノサイド条約)の下、ジェノサイドを防ぐ義務が生じる。
国際司法裁判所(ICJ)は「国家の防止義務、またそれに付随する行動の責務は、国家がジェノサイドが行われる深刻なリスクの存在について知る、あるいは通常そう知ったはずであると考えられる瞬間に発生する」と述べている。各国はその瞬間から、ジェノサイドを最大限防止するため合理的に活用可能なあらゆる手段を用いなければならない。