勉強会が盛んにおこなわれている頃、Odeも例外なくコロナ禍の影響を受けており、テイクアウトも含め、別業態に挑戦することを考えていた。最終的には、現店舗の隣に、コーヒーショップを出すことが決まった。
並行して、勉強会の成果と言おうか、その流れと言おうか、コンポストを導入しようという声が高まり、長年の夢が実現にいたった。生ゴミをすべて液体化し、排水として流すという業務用のコンポストだ。いくら野菜の端材までを利用しても、どうしても避けられない生ごみの問題が一気に解決したのである。
「業務用のコンポストというと、2〜300万円はします。新しくレストランを作る料理人にとっては、それはかなりの金額です。捻出したくてもできない店もたくさんある。そこには行政の力がどうしても必要だと思います。資金があるところだけが導入しても意味がありません。東京は、ミシュランの星が一番多い都市、レストラン大国です。皆がコンポストを導入できたら、サステナブルにおいてはものすごい力になると思います」
また、「レストランは食の最前線として大きな波及力を持っている」と、生井氏は言う。毎日不特定多数の人が訪れ、感動や感想、素材のことなどを口づてに広めてくれるからだ。
前出の野菜を乾燥させたお茶には、サスティという名前をつけているそうだ。食後の飲み物の一つとして出しているのだが、お客様から「サスティって何?」という質問が多く出るという。これこれしかじかと説明することで、サステナブルの意識が刻まれるお客様もいるだろう。話のネタになるだけでも十分だ。メディアによる影響力とはまた異なり、親しい人からの情報というのはとても強い。それがレストランの伝搬力だ。
メインは鳩/黒ごぼう/大浦ごぼう。鳩の胸肉はシンプルにロティ。もも肉はコンフィにしてから黒ごぼうペーストを塗り、グラチネに。内臓類は挽き肉と合わせて大浦ごぼうに射込み、煮込む
これから何をやっていきたいか、と尋ねると、やや意外な答えが返ってきた。
「サステナビリティの意識を高くレストランを運営していると大々的に言いたいわけではないですし、業界でこの領域を代表するような人になりたいわけでもありません。ではこれからの近未来へ向けてどうしていきたいのかと考えたときに、特別のことではなく、他店に『うちの店も真似できるのでは』と思われるくらいに簡単なことを続けていくことだと思います。そうすれば、いろいろな店が、気軽にトライしてくれるはずですから」
そうした意識が、店から店へと伝搬して、足並みが揃い、大きな力となる。「全体的に底上げすれば、必ず先の段階に行けるはずです」と生井氏。
ゲストに対しても、他のレストランに対しても、伝搬する力。生井氏はそれを信じて、粛々と日々の仕事に取り組んでいる。