シェフの生井祐介氏は、音楽の道を志していた25歳で料理の世界に惹かれ、転向。料理人としてのスタートは遅いが、感性の豊かさという意味では、確固たるものを持っていたのだろう。表参道の「レストランJ」、軽井沢の「マサズ」などで修業を積んだのち、軽井沢の「ウルー」で3年間シェフを務め、八丁堀の「シック・プッテートル」のシェフとして、2015年度版ミシュランガイド東京で一つ星に導いた
2017年に広尾に「Ode」を開き、2019年度版ミシュランガイド東京で一つ星獲得。その後の活躍は上述の通りだ。
名物のアミューズ。オマール海老のビスクの冷製のムースの周りを、オマール海老風味のカカオバターでコーティングしたドラゴンボール
「ベストレストラン50」といえば、食のアカデミー賞とも称され、世界のガストロノミーの潮流を決めるほどの力を持っている。生井氏は、初めてノミネートされたときに、レストランの活動に関する200にも及ぶ質問が送られてきたことに驚いたそうだ。その中には、当然ながらサステナブルなことに関する質問も含まれている。
「あわよくばサステナブル賞がとれたら……」、そんな軽い気持ちで質問を一問ずつ見ていき、愕然としたという。それは地産地消に及ぶことから、生産者の生活をどのように支えているか、従業員の労働環境をどのように考えているかなど実に多岐にわたり、フードロス云々ではなく、一まわりも二まわりも大きな持続可能な世界を見据えたものだったからだ。
「たとえば、『農家の閑散期にはどうしているか?』という質問がありました。もちろんうちでも旬の野菜を農家から取り寄せていますが、その野菜が終わった時期のことは考えもしませんでした。でも買い支えるというのはそういうことなのかと、目を見開かされる思いがしました。また、半径何kmの食材を使っているかという設問に関しては、東京という条件では難しいなとも思いました。
質問にあった項目は必ずしも実現できるものばかりではないのですが、グローバルスタンダードを知るという意味でも、すべての料理人があの質問表を見ることはすごく意味があるのではないかと思いますね」と生井氏は言う。