米国の消費現場では今、一体何が起きているのだろうか?
統計データを見る限り、住居費はこの2年で約3割と、大幅に上昇している(米国勢調査局の売上に関する統計による)。しかし住宅価格は、過去10年のうち5年にわたって、2008年のリーマン・ショックによる大幅なデフレからの回復途上にあった。さらに専門家の中には、実質の住居費に関しては、この40年間、大きな変化はないと主張する者もいる。
金融サービスのショッピング・プラットフォーム「Supermoney.com」のコンテンツ・ディレクターを務めるアンドリュー・レイサム(Andrew Latham)は、同サイトに先日投稿した記事のなかで、カリフォルニア州と北東部の住宅価格はバブルの領域に入っているかもしれないとしながらも、こう述べている。「全米レベルで見ると、米国人の53%は、自分が住む州における平均価格(中央値)の住宅を購入するのに必要な収入を得ている」
ガソリンは高値が続いている。その平均価格は最近になって1ガロンあたり約4.50ドルと、過去最高に達した。だが、ガソリン価格がこれほど高くなったことは今までなかったと信じ込んでいる人は、「経済学者の言う『貨幣錯覚(money illusion)』に陥っている」と指摘するのは、マーケットウォッチのコラムニスト、レックス・ナッティング(Rex Nutting)だ。
ナッティングによれば、「我々の脳が我々に、『これほど悪い状況は今までなかった』という、誤った認識を抱かせている」のだという。車の燃費向上やインフレなどの要素をすべて勘案すると、「ガソリン車で1マイル運転する際にかかるコストは、過去1世紀のうち大半の時期よりも、今の方が低くなっている」とのことだ。
一方、米国における実質世帯収入の中央値は、2020年にコロナ禍によって経済が休止状態に追い込まれるまで、5年連続で上昇していた。2015年から2019年までの期間、実質世帯収入の中央値は20%上昇し、2019年の1年間だけでも上昇額は4400ドルにのぼった。
今のインフレをめぐる状況は、むしろリフレーション(通貨再膨張:景気循環においてデフレーションから脱却してマネーサプライが再膨張し、加速度的なインフレーションになる前の段階にある、比較的安定した景気拡大期)の事例のように見受けられる。
米国人は長いあいだ、物価が下がり続け、テクノロジーがどんどん安価になり、エネルギー効率が上がり、金利は最低水準を維持する時代の恩恵を受けてきた。そして今、経済は以前の状況に戻りつつあるのだ。
残念ながら、大半の企業の経営幹部たちは、消費者が求めるもの、そしてさらに重要な、「消費者が何にならカネを出すか」という点をつかみきれていない。
以前にファースト・インサイトが行なった調査では、価格設定に関して、小売業界の経営陣とその顧客のあいだで、大きな認識の断絶があることが明らかになっている。テクノロジーが安価になり、顧客から簡単にデータを得る方法があるにもかかわらず、多くの企業幹部が、顧客心理を理解するための手段を講じるつもりがないのは、驚きとしか言いようがない。
いずれにせよ、現在の米国消費者たちは、インフレへの不安を抱えながらも、慎重にではあるがいまだにモノを購入している。なぜなら、彼らはまだ購入ができるからだ。