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2022.05.30

リーダーの「演じる力」


その典型的な人物が、映画俳優出身の元米国大統領、ロナルド・レーガンであろう。

彼の政治信条や実行した政策への賛否はさておき、彼は、国民の望むリーダー像を「演じる」ことにおいては、心憎いほどの能力を持っていた。

例えば、1983年、当時のソビエト連邦に核抑止力で対抗するための「スター・ウォーズ計画」を発表するときのレーガンは、見事なほど「国家を守る強いリーダー」の姿を演じ、一方、1986年のスペースシャトル、チャレンジャー号の爆発事故において、テレビを通じて国民に語りかけるときの彼は、「慈愛に満ちた国家リーダー」の姿を演じ、そのメッセージは、国民の心に深く響くものであった。

その背景には、彼が俳優として「演じる」ことのプロフェッショナルであったことがあるが、されば、コメディアン出身のゼレンスキー大統領が、この国家の未曾有の危機において、ロシア側の予想を覆し、「勇気と信念に満ちた国家リーダー」を演じ切っていることは、決して不思議ではない。

実際、映画の世界を見ても、コメディアン出身の名優は、二度のオスカーに輝くトム・ハンクスを始め、ロビン・ウィリアムス、エリック・バナなど、数多く挙げられる。

では、なぜ、我々は、「リーダーシップ」というものを、望ましいリーダー像を「演じる」ことによって身につけていくことができるのか。

それは、筆者自身の体験から得た確信でもあるが、拙著『人は、誰もが「多重人格」』で述べたように、実は、我々の中には、リーダー人格も含め、様々な人格が眠っているからである。そのため、リーダーの姿を意識的に演じていると、当初は、様にならないが、それを続けていると、眠っていたリーダー人格が徐々に表に現われ、少しずつ強化され、いつか天与の人格のようになってくるのである。

この後天的な人格形成の過程を、昔から、この日本では、「様になってきた」「板についてきた」「風格が出てきた」といった言葉で表現してきた。

このことを理解するならば、自身のリーダーシップに自信が持てない人は、しばし、自らに問うべきであろう。

「自分は、いま、理想的なリーダー像を心に描き、それを身につけるために、日々、『演じる』という修業を行っているだろうか」と。

もし、その修業を続けるならば、いつか、自分の中に、優れたリーダーが眠っていたことに気づくだろう。

田坂広志の連載「深き思索、静かな気づき」
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文=田坂広志

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