その理由として、ウクライナ軍の士気の高さと防衛力、欧米からの支援、ロシア軍の訓練不足と戦略的誤りなど、様々な要因が語られるが、その重要な要因の一つが、ウクライナのゼレンスキー大統領の強いリーダーシップであろう。
ロシア側は、当初、「一斉侵攻が始まれば、コメディアン出身のゼレンスキーなどは、早々と国外に逃亡する」と予想していたと思われるが、実際には、彼は、猛攻に晒される首都キーウに踏みとどまり、毎日、メディアとSNSを通じて、ウクライナ国民と軍隊、そして、全世界の人々に、強力なメッセージを伝え続け、「勇気と信念のある国家リーダー」を見事に演じ切っている。
ここで「演じる」という言葉を使うと、日本という国では、この言葉を「欺く」「騙す」という否定的な意味に捉える文化があるため、疑問を覚える読者がいるかもしれない。しかし、「リーダーシップ」とは、生まれつき与えられているものではなく、実は、「演じる」ことによって後天的に身につけていくものである。すなわち、それは、自分が理想とするリーダー像を心に描き、優れたリーダーの姿から学び、自身がそうしたリーダー像を意識的に「演じる」ことによって、経験を重ねながら身につけていくものである。
それゆえ、欧米では、リーダーの「演じる力」を重視し、フランスのエリート養成機関である国立行政学院(ENA)や米国のビジネススクールなどでは、この「演じる力」を重要な教程としている。
そして、リーダーシップというものが「演じる」ものであるかぎり、プロフェッショナルとして「演じる力」を身につけた人間は、ときに、リーダーとして、見事な能力を発揮する。