「きた。 やつがきた」 自殺大国日本、ネットで故人の声を聴け

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昨年12月の所信表明において、岸田総理は「若者も、高齢者も、障害のある方も、男性も、女性も、全ての人が生きがいを感じられる、多様性が尊重される社会を目指します」と語った。就任以前と就任後の言説の違いを、その揺れ具合を揶揄されがちだが、それはそれとして、どうやら我が国の指導者が見る現代日本に欠けている部分は「生きがい」と「尊重」であるらしい。

そんな日本の自殺者数は、年間30000人を超えている。この人口10万人当たり25.5という数字は、アメリカの2倍以上であり、交通事故による死亡者数を上回る。自殺大国と言われる所以である。

相も変わらずネット上には、「死ね」「殺す」などのNGワードを含む誹謗・中傷が溢れ、世は正に「呪いの時代」に突入したのだと実感させられる。そんななかで、『ネットで故人の声を聴け 死にゆく人々の本音』(光文社新書)を入手した。

「ちょうど今、考えていたところだ」と興味津々で頁を繰ってみる。

著者は、インターネットと人の死の向き合い方を考え、取材を重ねてきたフリーライターの古田雄介氏。ライターに転向する以前は葬儀社のスタッフなども経験しているだけに、死に対する思いは通常の人以上のものがあるに違いない。

“故人が残していったSNSやブログ、ホームページにはどんな世界が広がっているんだろう──?

もう10年以上も前になりますが、仕事の合間にパソコンのブラウザーを眺めながら、ふとそんなことを思いました。

その気になって探してみると、亡くなった人(あるいは、亡くなったと推測される人)のサイトはわりとたやすく見つかります。しかし、それは入口にすぎません。本格的に足を踏み入れてみると、そこから広がる膨大な思索と感情の波に圧倒されるでしょう。”

本書の冒頭に、著者の執筆に至る端緒が語られている。

長年、著者と同じく取材・執筆を生業としてきた私に、そのような気概は微塵も無い。亡くなった人が残した文章を探し、そこから故人の思惑を追い求めるなど「ゾッとしない」。というのが、私の偽らざる気持ちだ。

しかし著者は、この自殺大国と呼ばれる日本において、急速に普及するインターネット上における「死との関わり方」を追い求めていく。とても大切な取材活動であり、同じく取材・執筆者としてリスペクトするに値する方だと言うことを、思い知らされる一文だ。

そして本書は、自死を含む15の事例を紹介していく。

そこには、高校2年で死を受け入れた少年の、死後11年を経ても日々更新され続けるブログの話や、41歳で余命を知った医師の闘病記や、通り魔的な暴漢に殺害された高校生の娘の死後にブログを立ち上げた父親など、迫真の生きざまが15通り描かれている。
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文=森健次

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