「何かあったら家には帰れないということを常に意識していますし、それは子どもたちにもきちんと言っています。また、命を人のために投げ出さなくてはいけないということも自分の中で覚悟しているところはあります」
24時間なにかあれば即応態勢であるべきと自覚しながらも、小さな子どもを連れて出勤するわけにいかず、自分は自衛官として失格なのではと悩んだり、子どもの世話に専念したいと自衛隊を辞めようか迷う人もいる。
組織からの要求にいつでも対応できない、という現実が彼女たちを追い詰める。
「幹部自衛官としての責任があるのと同時に母親である彼女たちの、双方の役割の間で強く葛藤する声は、どれだけ紹介してもし尽くせないくらいの発言がありました」と著者は公私を両立することの難しさを指摘する。「子どもをもつ女性自衛官は、プライベートでも母親という重要な役割」を担っているのである。
本書はかなりの部分を女性自衛官の語りが占めている。インタビューによって得られた女性自衛官の生の声からは、彼女たちがときに自分らしいキャリアを諦め、悔しい思いを噛みしめながら壁を乗り越えてきたことが伝わってくる。
しかし語りからは重苦しさは感じられない。それどころか自分の仕事の目的を自覚し、意義を見いだし、責任をもって仕事に励む姿はすごく、かっこいい。本書で取り上げられるテーマは働くすべての女性たちの胸を打つはずだ。
馬場紀衣(ばばいおり)◎文筆家。ライター。東京都出身。4歳からバレエを習い始め、12歳で単身留学。国内外の大学で哲学、心理学、宗教学といった学問を横断し、帰国。現在は、本やアートを題材にしたコラムやレビューを執筆している。舞踊、演劇、すべての身体表現を愛するライターでもある。