小暮昌弘(以下、小暮):この革、この色、あのブランドではないですか。
森岡弘(以下、森岡):フランスで19世紀に創業された「ベルルッティ」です。革は妖艶な雰囲気さえ漂わせます。独特のこの革は唯一無二と言えます。
小暮:「ヴェネチアレザー」と呼ばれるこのメゾン独自の革ですね。手染めで何度も塗り重ねる「パティーヌ」という手法が色に奥行きを与えてくれます。この革を使った靴が日本にはじめて紹介されたときは衝撃的でした。靴のカラーリングに革命をもたらしたのではないでしょうか。昔、インタビューさせてもらったことがあるのですが、「ベルルッティ」の4代目のオルガ・ベルルッティが考案した手法です。
森岡:今回取り上げるバッグとサンダルにその「ヴェネチアレザー」が使われています。小暮:革の表面に、同ブランドでは「スクリット」と呼ぶ、カリグラフィーが入っています。これはオルガが手に入れた18世紀の手書きの手紙から着想を得たものだそうですよ。
森岡:靴では「パティーヌ」の色合いがやや派手に見える場合もあります。しかしバッグは案外使いやすいかもしれませんね。このバッグ、革以外はシンプルなデザインですし、スーツやジャケットなどのドレス的なアイテムにも似合うと思います。わかりやすいブランドのロゴやプレートではなく、知っている人だけが「ベルルッティ」だとわかる「スクリット」がアイコンとして完全に成立しています。革にしても、ディテールにしても、どこか謎めいたところ、ロマンを感じさせるところが心をくすぐる大きなポイントではないでしょうか。
小暮:しかもこの「スクリット」、まるで素材の一部のようにバッグ本体に彫られています。レザーを使ってこの「スクリット」を入れているので、ひとつとして同じものはないと聞いています。
森岡:まさに、世界でひとつだけのバッグ。「ベルルッティ」の靴が「宝石」と呼ばれるならば、このバッグもまさに「宝石」と言っていいでしょうね。