五色塚古墳への訪問者が183パーセント増。神戸市が制作したアニメMVの意外な効用

アニメMV「ワンダリズム きみを呼ぶ声」の1シーン、主人公の「なつしま」(左)


実は、神戸市役所が五色塚古墳のプロモーションを仕掛けようと考えはじめたのは、2020年10月のことだった。この古墳はいまから50年前に、築造された4世紀後半の姿に復元され、「復元古墳」としては国内最大を誇る。

五色塚古墳は、奈良にあったヤマト王権と深いつながりがあったことは考古学的にも判明しているのだが、実際にここに誰が葬られているのかは、性別すら判らないというミステリアスな遺跡でもある。


五色塚古墳から淡路島と明石海峡大橋の眺望

さらに、復元されているので古墳の頂上に登ることができ、そこから淡路島から明石海峡大橋という絶景も楽しめる。そんな理由で、20代の女性を中心に「パワースポット」として注目され、この古墳を観光目的に九州地方や中国地方から訪れる人たちが増えつつある。

そこで神戸市は、コロナ後を見据えて、この古墳をパワースポットとしてプロモーションしていこうと考えた。ところが、パワースポット好きな若い女性をターゲットにするのであれば、これまでのただ古墳の歴史や由来を紹介するようなポスターやウェブサイトなどでは、この古墳の持つミステリアスな魅力を伝えにくいだろうと悩んでいた。

新たな手法が必要だと判断した神戸市は、2年ほど前から付き合いのあった東宝グループの「TOHOマーケティング」の山口泰弘に相談した。山口はそのときのことを次のように話す。

「すでに2019年頃から地方で埋もれている物語を発掘する映像作品をつくりたいと考えていました。その第1弾は映画のロケ地として協力してもらっている神戸市を舞台にと想定していました。

そんな折に五色塚古墳をテーマにと提案されたのですが、多くの人が持っている、お洒落で異国情緒が溢れる港町や異人館といった神戸の街のイメージと違うので、最初はだいじょうぶだろうかと思いました」


TOHOマーケティング宣伝事業部渉外室室長の山口泰弘

ところが山口は、五色塚古墳が神戸市内の小学校の約半数が校外学習で訪れるなど地元の人々にとても愛され、歴史的にも考古学的にも謎に満ちた遺跡であることを知る。

そして「イメージが掴みにくいのは、逆に想像力が掻き立てられる。若手クリエイターが新たな物語を描いて、成長の機会にするには、とても良い舞台だ」と思うようになったという。
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文=多名部重則

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