ビジネス

2022.05.27 08:30

旧ソ連出身の起業家がたどり着いた「金」という究極のオフライン資産


新しい仕事の方向性が決まったのは、米国人による外国金融機関経由の脱税を防ごうと、米国政府がこれまで以上に面倒な規制を課したのがきっかけだ。規制を受けて、スイスのある銀行が新しい規制の求めるやっかいな事務作業を省略したいと言ってきて、ミハイロヴィチは、金の延べ棒をキャスター付きスーツケースに詰め込み、チューリッヒまで自ら届けた。「腰痛になるぐらいの量」だったと彼は言う。

こうして11年に誕生したのが金塊事業である。とはいえ、当時最高水準にあった金の価格は、すぐに長い低迷に入った。立ち直ったのはつい最近だ。現在預かっている金塊は3億4000万ドル相当。現在の世界情勢では、需要拡大が見込めそうだ。

「資産の一部はオフラインで保管するべきです。オンラインは不安定です」(ミハイロヴィチ)

03年にニューヨークで発生したような大停電がまた起きれば、金融システムに深刻な打撃を与える可能性があるとミハイロヴィチは予想する。そうでなくとも、米国政府は過去最大に膨らんだバブルをなおも膨らませ続けており、政府や政府資金への信認は著しく損なわれようとしている可能性がある。

カナダの例を見よ、とミハイロヴィチは言う。ワクチン義務化に抵抗するトラック運転手のデモに対し、カナダ政府は銀行口座を凍結するという対応を取った。

「米国政府はそれから3週間もしないうちに、核をもつライバル国に対して同様の措置をとったのです」

ミハイロヴィチは、彼と同じレニングラード出身のウラジミール・プーチンが積み上げてきた富について、こう言う。外国通貨建ての口座に預けた資金はある日突然アクセスできなくなることが明らかになった。だが、金融機関でないところに保管している金塊ならいつでも使えるではないか。

「上海に預けておくという手だってあります」


The Bullion Reserve◉2014年創業。フィンテックによって金融のネットワーク化が進むなか、ネットワークから独立したバックアッププランとしての、金の現物資産の保管などのサービスを提供する。精錬所からの金の買い取り、装甲車での輸送、倉庫での厳重な保管などを行う。顧客はいつでも現金、または金により現物を引き取ることが可能。

Simon Mikhailovich◉ブリオン・リザーブの共同設立者。1959年に旧ソ連、レニングラードで生まれ、79年に米国移住。レニングラードの工業学校ではフィルム化学を学んでいたが、渡米後、ジョンズ・ホプキンス大学で理学士号、ボルティモア大学で経営学修士号(金融)を取得した。2000年と08年の金融危機では利益を得た。

文=ウィリアム・ボルドウィン 翻訳=フォーブス ジャパン編集部 編集=森裕子

この記事は 「Forbes JAPAN No.095 2022年月7号(2022/5/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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