しかし、日本におけるCDの売り上げは、1998年をピークに下降(出所:日本レコード協会)。インターネットの普及とともにダウンロードに移行し、この数年ですっかりストリーミングが主流となった。レコードやCDを購入していた時代から、買わなくても楽しまれるようになり、音楽業界の収益構造は大きく変わった。
「ミュージシャンは確実に苦しくなってますよね。CDが売れなくなって、じゃあライブで稼ごうと思っていた人たちも、コロナ禍でそうもいかない。今、売れていると言われているアーティストの収入は、90年代で売れた人の10分の1、あるいは100分の1ぐらいだと思います」
こう話すのは、音楽とファッションの両面でストリートカルチャーを牽引し続ける藤原ヒロシだ。
5月26日、藤原は音楽プロデューサーチームALLe(オールイー)とともに、「ABCRECORDS」という新しいNFTプロジェクトを立ち上げた。音楽NFTというと、限定盤やコミュニティ参加権などを売るものが多いが、これは「音源の所有権と独占的商用利用権」を販売するという点で他と一線を画す。
もともと“著作権”に疑問があった
藤原が音楽の世界に入ったのは80年代。ロンドンやニューヨークで体感したクラブカルチャーやヒップホップを日本に持ち込み、DJのパイオニアとして活躍。90年代になると、小泉今日子やUAなどのプロデュースを手がけるようになり、その後、作曲家、アレンジャーとして活動の幅を広げていった。
「そもそも僕は、サンプリング、当時でいうスクラッチで、他の人の曲のある部分を使ってプレイにすることに惹かれて、音楽の世界に入ってきました。でもその頃から、オリジナルの権利者にお金を払うことの意味がわからなかった。例えばカバーした曲が売れれば、オリジナルにも好影響があるだろうから、それで十分では? と思ってました」
音楽の権利訴訟で有名なものに、米ラッパーのパフ・ダディらが、急逝したノートリアス・B.I.G.への追悼歌として1997年にリリースした「I’ll Be Missing You」がある。原曲はThe Police(スティング)の「Every Breath You Take」。CDが数百万枚売れるヒットとなったが、サンプリングの許可を取らなかったことでスティングが訴訟を起こし、結果的にロイヤリティの100%を得た。
最近話題になったのは、テイラー・スウィフトの原盤権争いだ。2019年、初期作品の原盤権が自らの意図しないところで“投資対象”として売買されることに抗議したテイラーは、楽曲を再レコーディングすることで、古いバージョンの価値を下げる反撃を決意。その後数年にわたって、新バージョンをリリースしている。